「コンセプト勝負」の限界とK-POPグループの長寿化
矢野:ターゲットが完全に従来のK-POPファンだけではなくなってきているのは感じます。前回僕のイチオシグループとしてお話ししたCORTISもまさにそうです。アイドルとしてのキャラクターやコンセプトはもちろん重要ですが、シビアに曲のカッコよさでジャッジされるようになっていますよね。ゆりこ:曲がどんなに完成度高くとも、知られないと埋もれてしまいます。マーケティング費用という面では資本力のある大手事務所が有利であることは間違いありません。となると、コンセプトで“立つ”しかないのですが、K-POPで長年重要視されてきた「コンセプト設計」ももはや飽和状態。今年デビューしたXLOVの「ジェンダーレス」というコンセプト、男女混合のALLDAY PROJECTのように、これまでK-POP業界が手をつけてこなかったところを攻めるなら可能性がありますが、先人がハイリスクと判断したがゆえに“未開の地”だったりするので安易ではないと思います。これからの新人グループ、なかなか大変だよなあというのが率直な感想です。
矢野:新人グループを取り巻く環境がハードモードになっている問題、僕はK-POPグループの長寿化も影響していると思うんです。昔は「魔の7年目(※)」といって、デビューから7年ほどで解散するグループが多かったのですが、最近はその傾向が落ち着いていませんか? 人気のグループほど簡単に解散しないですし、再結成するケースもあります。すでに大きなファンダムを持つ手強い先輩たちが現役で残っているところへ参入するのは……過酷です。
※韓国の公正取引委員会が芸能人の専属契約における最長契約年数を7年と制定。そのため7年で事務所との契約を終了し、脱退や解散をするグループが多かったことから、K-POPファンの間で「魔の7年目」と言われている。
「弟/妹グループ」という“ファミリー売り”も終わりつつある?
ゆりこ:たとえ同じ事務所の先輩アーティストでさえ、遠慮なく追い越そうとする姿勢が必要なのかもしれません。もしくは完全に別の山の頂上を目指す。もう誰かの「弟/妹グループ」として愛される時代が終わりつつあるのを感じます。矢野:CORTISにBTSやTOMORROW X TOGETHERの“弟感”は皆無ですもんね。絶妙にかぶらないところで勝負しているように見えます。
ゆりこ:これはもう随分前からの話ですが、新人K-POPグループを売り出す際に事務所や日本のレーベルが「(誰かの)弟/妹グループ」と銘打つのをNGとしていたケースも多いです。ただ、ファンとしてはどこかでそういった見方をしていたと思います。なぜなら中堅以上の事務所は「SMTOWN LIVE」「JYP NATION」「FNC KINGDOM」など、所属アーティストを集めた合同コンサートを定期的に開催していて、そこでデビュー直前・直後の新人をお披露目することが少なくありません。先輩アーティストとのコラボステージや、掛け合いを通して“ファミリー感”や“団結力”が伝わり、自然と「この子たち(新人)を応援しよう!」という気持ちにさせるんです。
矢野:先輩グループのファンも、新人グループをなんだか応援したくなってしまう、という仕組みですね。でもその“ファミリー感”で応援される流れが変わってきているということですか?
ゆりこ:年々連帯感は薄まっている感じがします。それは韓国大手事務所内の構造の変化も関係しているかもしれません。HYBEは複数のレーベルを個別に運営しています。元々“ファミリー売り”はしていません。他社を買収して大きくなっているので、ある程度の独立性を保つことが最適解だったのでしょう。なれ合わずに切磋琢磨し、レーベルごとのベストなクリエイティブと利益を産むことを目指したのだと思います。HYBE以外の事務所もここ数年でどんどん社内のセクションを分割し、独立性を高めている傾向にあると聞きます。全体最適も考えているでしょうけれど、ドライに「他セクションに負けられない」っていうのはあるんじゃないかな。完全に会社員経験からの邪推です。
矢野:前回「SMエンターテインメントからのデビューラッシュがすごい、短期スパンで新人グループが出てきている」という話が出ました。会社全体で新人1組を全力でプッシュするというのは、もしものことを考えるとリスクも高い。新人に限らず、以前は「A社は今○○というグループを売り出したいんだな」というのがファンの目にも明らかでした。でも今は分散されている感じもします。



