英語の命令形も日本語では依頼形へ
一方、英語では「Fasten your seatbelt」「Turn off your phone」のように、短くて明瞭な命令形がより多用されており、この違いは空港や飛行機内など、日本語と英語が併記されている場において顕著です。
英語では命令形が自然に使われる場面でも、日本語話者にとっては、表現がストレート過ぎると「上から目線」と反感を持たれやすいことがよく分かります。
接客でも「自分を下げてから」が基本
こうした言葉遣いに対する敏感さは、接客やビジネスの現場でも色濃く表れています。例えば、「非常にきつい言い方になりますが……」「大変恐縮ですが……」といったクッション言葉を使い、まず自分を一歩引いた位置に置くのが定番です。それがないと、どれほど敬語を使っても、偉そうに聞こえたり、感じが悪いと思われてしまうリスクがあります。
筆者が客室乗務員として働いていた時も同様でした。機内でお客さまにお願いや注意をしなければならない場面では、必ず「説明が不十分だったかもしれませんが……」「おくつろぎのところ申し訳ございませんが……」と、自分に非があることを前置きしてから本題に入るのが常でした。
あえて自分を低い立場に置いてから切り出すことで、相手への配慮と敬意を示す……まどろっこしいように感じるかもしれませんが、日本ではこのような謙譲表現が、信頼や円滑な人間関係を築くうえで欠かせない要素となっています。
絵文字が人間関係の緩衝材に
日本では、長らく「本音と建て前」が使い分けられてきました。直接的な否定や注意を避けるため、はっきりと意見を述べること自体が、感じが悪いと受け取られるのも自然なことです。そんな時に役立つのが絵文字やスタンプです。文章の内容が厳しくなりそうな際にも、スマイリーやお祈りポーズ、涙目などの絵文字を添えることで、感情のトーンやニュアンスを自然に和らげることができます。互いの感情や立場を絶妙に調整してくれるため、相手に「上から目線」と誤解されないようにする上でも、今や欠かせない存在となっています。
意図を汲み取る力と鈍感力を
ここまで見てきた通り、日本語で何かを伝えようとすると、「少しでも言い方を間違えると激しく批判されたり、相手の心証を悪くする」というプレッシャーが強くのしかかります。結果として、「言いたいこと」よりも「どう聞こえるか」が優先され、内容よりも表現にばかり神経をすり減らしてしまっているように思います。特に顔が見えないSNSやネットの世界では、他意のない感想や率直なアドバイスを書いたつもりでも、過度に謙虚な表現でなければ「マウントを取っている」などとネガティブに受け取られてしまうことは、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。
相手に配慮した言い方はもちろん大切です。しかし、受け取る側も相手の言い方に過敏に反応し過ぎず、その意図を汲み取る力や、些細なことで心やプライドが傷つかない鈍感力を身に付けることができれば、もっと気楽にコミュニケーションできる社会になるのかもしれません。
この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。



