
原作小説は、Web小説サイト・カクヨムで計2300万PVを超え、単行本の累計発行部数も70万部を超える人気作。今回の映画化にあたっては10社以上のプレゼン合戦が行われていたそうです。
そして、櫛山慶プロデューサーが目標していたことは、「『ミッドサマー』のような世界で通用する上質なジャパニーズホラー」「トラウマ級に怖いホラー」「Netflix配信の『呪詛』のように世界で求められる“土着的”なホラー」だったのだとか。
そのかいあってか、本編の内容は「ガチ」。良い意味で「その目標を達成しないでよ!」と文句を言いたくなるほど、もはや怖いを通り越して、感情をぐちゃぐちゃにされる、見ていて本当に気分が悪くなるほどの、衝撃的な映画体験ができました。 (※注)以下からも「気味が悪い」「不気味」「イヤすぎる」「げっそり」など、一見ネガティブに思える言葉が頻出しますが、全て褒め言葉です。
知ってほしい前置き1:「逃げられない」映画館で見るべき
今回の映画のレーティングはG(全年齢)指定となっていますが、凄惨(せいさん)な死体がはっきりと映るなど、かなりショッキングな場面が多いので、それなりに覚悟をして見たほうがいいでしょう。気分が悪くなる真の理由は、画面に映ることそのものではなく、後述するように「何かの事象がつながっている」と「想像をさせるから」だったりもするのです。
それ以上に映画館で見るべき理由は、「逃げられない」から。もしも本作を家のテレビで見てしまったら、イヤすぎて途中で再生を止めてしまったかもしれません。良い意味で精神的に「来る」タイプのホラーであり、それを「見続けるしかない」暗い劇場内でこその、心の底からひんやり……いや、げっそりする体験をぜひしていただきたいのです。
知ってほしい前置き2:予習は必要?
原作を先に読んでいたほうが楽しめるかも? と思っている人もいるでしょう。結論から申し上げれば、映画単体で楽しむには予習は一切不要であり、むしろ何も知らないで見ることで、「わけが分からない展開」に翻弄(ほんろう)され、より新鮮な体験になるはずです。
とはいえ、原作小説にはとある「叙述トリック」のような要素があり、先に映画を見てしまうと、それがネタバレになってしまうのも事実。しかも、その叙述トリックを踏まえることで、本作ならではの独自性にも気付けます。それは決して作品の中核を成すサプライズではなく、知ってしまっても作品の魅力が大きく損なわれることはありませんが、「原作小説を読んでこそ味わえる驚き」を体験したいなら、鑑賞前に原作を読んでおくのもおすすめです。

さてさて、前置きが長くなりましたが、ここからはネタバレを含まないように気を付けつつ、一部内容に触れる形で、なぜ映画『近畿地方』がこれほど怖いかを、解説していきましょう。