3:「戦わない」選択をする主人公
そんな問題ばかりのエリオでしたが、ある日、さまざまな星の代表が集う世界である「コミュニバース」に”地球の代表”として招かれ、そこで出会ったエイリアンの少年・グロードンと初めて「本当の友達」になります。ここでは詳細を伏せておきますが、エリオはそのグロードンが抱えていた、自分とは少し違う(似てもいる)悩みを聞き、銀河を揺るがす脅威を避けるため、戦うのではなく「交渉」を試みるのです。
また、劇中には「戦闘用のスーツ(兵器)」も登場するのですが、エリオとグロードンがそれを使ってヒロイックな活躍をすることはありません。単純にバトルシーンの見せ場がないことを不満に思う人もいるかもしれませんが、それもまた「戦わない」物語の主題にマッチすることとして、大いに肯定したいのです。
4:『アナ雪』に通ずる「ありのままで」だけではない問いかけ
ポスターのキャッチコピー、また予告編には、グロードンからエリオへの「そのままの君が好きだよ」と「自分らしさ」を肯定してくれる言葉がありますが、実際の本編ではエリオの言動が「全肯定」されているわけではありません。 エリオがウソをつき続けたことは劇中の最大の問題につながってしまいますし、「新しい居場所を見つけたとしても、今までの全てを捨ててもいいのか?」という真っ当な問いかけもされているのですから。これは、ディズニーのアニメ映画『アナと雪の女王』にも通じるメッセージです。本作では、「ありのままで」という『レット・イット・ゴー』のフレーズが印象的に使われていますが、主人公エルサがその曲を歌いながら選んだ行動は「氷の城に閉じこもる」ことであり、それは必ずしも「正しい」と言い切れない選択でしょう。 もちろん「自分らしさ」が大切であることは、『アナ雪』でも『エリオ』でも告げられています。しかし、だからと言って、自分の中にある問題から目を背けていいわけではない。どこかでバランスを探ったり、自分ではない誰かのための良い選択をする。そのような「自分らしさ」だけにとどまらないメッセージは、とても真摯(しんし)だと思えたのです。



