廃止する学校も…「通知表って本当に必要ですか?」その問いに現役教員が出した答え

学期末、子どもも親もその内容に一喜一憂する通知表。近年の働き方改革の一環で通知表が一部廃止された自治体もありました。では、作成する先生自身は通知表についてどのように考えているのか、現役の小学校教師にお聞きしました。

廃止した自治体も……「通知表」って本当に必要ですか? 現役教師の回答は
「通知表」って本当に必要ですか? 現役教師の回答は(画像出典:ソラえもん/PIXTA)
学校の先生の業務としてウエートを占めているものの1つが評価、特に通知表の作成です。ある自治体では一部通知表を廃止した例もあります。

しかし、保護者にとっては子どもの学習の様子が分かる貴重な資料ともいえます。これからの時代、「通知表は本当に必要なのか」について、現役の小学校教師である松本隼司さんにお聞きしました。

(今回の質問)
通知表って、本当に必要ですか?

 

(回答)
立場によって判断が難しいですが、時間の確保や発行回数の見直しなど「教師が子どもたちや保護者のために通知表をしっかり作れる環境」を整えた上で継続させて欲しいと思います。

どういうことなのか、以下で詳しく解説します。

親にとっては大切な通知表。継続するには制度の改革が必要

私は教師でもあり親でもあるので、親の立場からするとやはり通知表は欲しいと思います。教師から見た子どもの様子が知れる貴重な資料ですから、とてもありがたいですね。

しかし、教師の立場で考えると、やはり負担は大きいです。個人差はあると思いますが、1クラス分の通知表を作成するのに大体1カ月ほどかかります。作成後に管理職に内容を確認してもらって、各家庭に渡しています。

もちろんこれは普段の業務のほかに学期末に追加される仕事ですから、その時期の教師はかなり多忙になっています。

さらに現在は「働き方改革」によって残業を減らす傾向にありますので、持ち帰り業務が増えてしまっている先生もいるのではないでしょうか。

一方で、現在はあまり珍しくなくなった二学期制ですが、これにより通知表を作る回数が年3回から年2回になり、負担感が軽減している自治体もありますね。

二学期制の学校では大体10月と3月に通知表を渡しますから、夏休みや冬休みなどの授業がない時期を使って通知表の土台を作っておくことができるためです。

通知表というシステムを継続していくためには「発行回数や内容の見直し」「制作時間の確保」が必要不可欠だと思います。学校は「これまでやっていたことを変える」ことが苦手な場所ですが、真の働き方改革のためにはこうした制度変更なども考える必要があると思います。

通知表作成の大変なポイントって?

通知表の作成で個人的に大変だと思うのは評定です。小学校では数字での評価のほか、「◎・◯・△」で表されているところもあるのではないでしょうか。

多くの学校では3段階が多いように思いますが、以前勤務した学校で5段階評価のところがありました。個人的には、3段階よりも5段階の方が評価しやすいと感じています。

子どもたち一人ひとりの成長を見ると「あともう一歩で◎をあげられるのに」とか、「△をつけるほどではないな……」と悩んだ結果、3段階評価だと真ん中の評価である◯をつけることが多くなりがちです。

しかし、5段階評価であればその細かな評価も数値に反映してあげられます。子どもや保護者にとっても「ここがあと一歩なんだ」「これが特に苦手なんだな」ということがより明確に見えますよね。

また、多くの先生の頭を悩ませるのが学習面や生活面の様子を記入する所見欄。事実、書店では「役立つ! 所見欄例文集」のような指導書がたくさん売られています。

所見欄の記入に悩む先生方におすすめしたいのが、前述のような指導書を年度始めに読むことです。そうすることで、子どもたちを見取るポイントが明確になり、より効率的に子どもの評価をすることができます。大事なのは「どんな文章を書いてあげるか」ではなく、「子どものよさや頑張りをどう見取ってあげるか」ということですね。

学校と家庭をつなぐ大事な資料である通知表ですが、それを継続するには先生個人の頑張りでは限界があるのが現状です。社会全体で今一度、その価値や在り方について見直す必要があると思います。
松下隼司さん
大阪府公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。令和6年版教科書編集委員。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクール文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門優秀賞などの受賞歴を持つ。新刊「先生を続けるための『演じる』仕事術」(かもがわ出版、2025年8月19日発売)など著書多数。voicyで『しくじり先生の「今日の失敗」』を発信中。
先生を続けるための『演じる』仕事術
先生を続けるための『演じる』仕事術
 
この記事の執筆者:大塚 ようこ
フリーランス編集・ライター。子育てや教育、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。
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