学校の働き方改革、現場のホンネは? 現役教師が明かす「意外な変化と課題」

授業準備やICTへの対応、そして保護者対応など日々膨大なマルチタスクに追われる学校の先生。「働き方改革」という言葉が世に広まって久しいですが、具体的に先生たちの働く環境はどのように変化したのでしょうか。現役の小学校教師にお聞きしました。

「働き方改革」で本当に学校や先生たちの仕事は変わった? 現役教師の回答は
「働き方改革」で本当に学校の先生たちの仕事は変わった? 現役教師の回答は(画像出典:PIXTA)
今、社会全体で話題になっている教師不足にも関わる「働き方改革」。

ICTの導入やカリキュラムの見直しなどが行われているということですが、実際の業務量や現場の先生たちの実感はどうなのでしょうか。

現役の小学校教師である松本隼司さんにお聞きしました。
 

(今回の質問)
現場で働き方改革が意識されて以降、変化を実感することはありますか?

 

(回答)
業務量が増えたと感じることもあるが、現場の意識が変わってきている実感はあります。


どういうことなのか、以下で詳しく解説します。

メリットだけではない? ICT導入後の先生の仕事の実態

ICTの導入については、メリットとデメリットの両方が顕著に現れていると感じます。

メリットで言えば、調べ学習をするときに視聴覚室に移動してパソコンやプロジェクターを起動して……という作業がなくなりました。調べ学習も教室を移動せずにスムーズに始められるようになったことは時短につながっているのではないかと思います。

また、子どもたちの出欠確認もとても楽になりました。本校では専用アプリで保護者から欠席連絡をしてもらうと、それが教師の端末に届く仕組みになっています。

以前は職員室に欠席の電話が入ると放送で呼び出され、教室から職員室にダッシュするなんてこともありました。アプリが導入されたことで、朝の子どもたちの出席状況をタブレット1つで確認できるようになったのは大きいですね。

デメリットとしては、「タブレットを使うための業務」が増えたことです。パスワードなどの管理をはじめとして、校務分掌(学校運営に必要な業務を教師が分担すること)の中の視聴覚担当者の業務が膨大になったように思います。

以前までは主に視聴覚室の中のパソコンや投影機などの管理がメインの業務でした。しかし、学校に配置された1人1台端末全てが視聴覚担当の管理範囲となります。不具合はもちろん、年度末と年度始めの進級・進学のタイミングでの端末や充電ケーブルの管理、移動など、「そんなことまで?」と思われそうなところまで細かくチェックしています。

働き方改革による思い切ったフローの省略で、仕事がスムーズになった側面も

ICT以外の話でいうと、現在の勤務校では職員会議のフローがかなり効率的になったのはとてもありがたいです。

以前は管理職を交えて丁寧に検討するあまり、最終的な採決を取るまでに何層ものフローがありました。そのため「また1から検討し直し……」ということが多く、なかなか仕事が前に進まないということが多かったのですが、現在は一人ひとりの裁量に任せてもらえる部分が増え、スムーズに進むことも増えました。

そのほか、各学校で教師の授業力向上のために行われている研究授業についても、指導案の検討時間が省略・効率化され、子どもたちが下校した後の時間をほかの仕事に使えるようになりました。

結局は現場の先生の自己犠牲によって成り立っている働き方改革。必要なのは……

私が働いている地域ではスクール・サポート・スタッフ(通称:SSS)が各学校に配置されており、授業のサポートやプリントの印刷業務などを任せられる仕組みになっています。

SSSの方はほとんどが定年退職した元教師なので、事務作業などを安心して任せられるのでとてもありがたいです。

とはいえ、現場の働き方改革は「先生方の意識の向上」という前提のもとに行われています。

その証拠に、表面的には早く帰れるようになっても、結局仕事を持ち帰っている、という先生も少なくありません。意識改革も大事なのですが、やはり根本的な業務の見直しや事務業務に使える時間を確保してもらうことで、本当の働き方改革となるのではないかと感じます。
松下隼司さん
大阪府公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。令和6年版教科書編集委員。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクール文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門優秀賞などの受賞歴を持つ。新刊「先生を続けるための『演じる』仕事術」(かもがわ出版、2025年7月23日発売)など著書多数。voicyで『しくじり先生の「今日の失敗」』を発信中。
先生を続けるための『演じる』仕事術
先生を続けるための『演じる』仕事術
 
この記事の執筆者:大塚 ようこ
フリーランス編集・ライター。子育てや教育、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。
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