フランスの学校給食で「ベジタリアン食」が義務化された理由。健康的な食生活は“裕福な家庭”だけ?

ソースがたっぷりで、こってりとしたイメージがあるフランス料理。しかし、近年ではベジタリアンでない人でも、定期的に「肉なしメニュー」を取り入れることが多くなってきました。そんなフランス社会で進む「食の変化」を、在住者がリポートします!

肉料理やバターたっぷりの料理で知られるフランス。そんなイメージの裏で、現地フランスでは今、「ベジタリアン食」が徐々に広がっています。

もともとベジタリアンやヴィーガンの人口が少なくなかったフランスですが、近年ではベジタリアンではない人たちも、例えば週に1度といった頻度で、植物ベースの食事を取り入れる習慣が広がり始めているのです。

その波は、もはや個人の選択にとどまりません。学校給食で「週に1度のベジタリアンデー」を導入していたり、スーパーではベジタリアン専用コーナーが拡大されていたりと、「社会全体」としての受け入れがどんどん進んでいる印象です。

ベジタリアン食が一般化している理由

スーパーのベ時コーナー
フランスのスーパー、ベジタリアンコーナー(写真は筆者撮影、以下同)
フランスでベジタリアン食がここまで広がっている理由は、複数あります。大きく分けて3つのポイントがあるのですが、一番は「環境保護への関心」が高まっていることが原因です。

環境問題は、「肉を食べない」「消費量を減らす」という選択の大きな要因になっています。畜産業は温室効果ガスの排出源ともされることから、多くの人が食生活を見直すきっかけの1つにつながりました。
 

もう1つ支持されているのが、「動物の権利や福祉」にまつわるテーマ。食肉の「トレーサビリティ(どこで、どのように作られたか)」に関心を持つ人が大変多く、動物の扱いに対して疑問や共感を持つ声が、フランス社会の中でより大きくなってきています。
 

さらに、フランスにおける健康志向の高まりは、単なるトレンド以上のものがあると感じます。というのも、フランスの家庭料理は日本食に比べて、やはり“こってり”で“ヘビー”。バターや生クリームの消費量も尋常ではなく、日常的に脂質を取り過ぎているという人も……。体重管理や生活習慣病の予防のためにと、植物ベースの食事を選ぶ人がかなり増えています。

学校給食では週に1度のベジタリアンデーを導入

スーパーの野菜コーナー
ヨーロッパ随一の農業大国でもあるフランス
そしてフランスの学校給食ではなんと、週に1度の「ベジタリアンデー」が導入されています。2019年から実験的にスタートし、2023年からフランスの法律によって義務化されました(※参考:フランス農業・食料主権省「ma cantine」公式Webサイト「タンパク源の多様化とベジタリアンメニュー」)。

対象は幼稚園から小学校、中学校、高校までの全ての公立校。自治体によって頻度は異なるものの、これらの学校では、肉や魚を含まないベジタリアンメニューを週に1度以上提供する必要があります。ただしヴィーガンではないため、乳製品と卵はメニューに含むことが可能です。

ベジタリアンデーが広がった背景には、「野菜や果物を含むバランスの良い食生活が、低所得層の家庭では普及しておらず、裕福な層に偏っている」という現状がありました。

つまりベジタリアンデーの目的は、学校給食を通して全ての子どもに平等な「食の機会」を保障すること。また、高価な肉類を減らすことで実現するコスト削減、そして環境的・社会的責任といったさまざまな理由から、この導入が決定されました。

メニューも豊富で、一例では「野菜のクスクス」「豆腐のラビオリ」「大豆ステーキ」などが提供されています。これに対し、現在でも賛否はあるものの、「毎日繰り返す食事のうち、1食がベジタリアンになるのは構わない」といった肯定的な声がほとんどのようです。
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