3:監督の作家性が強く打ち出された内容に
監督のジャレッド・ヘスは、2004年公開の映画『ナポレオン・ダイナマイト』を手掛け、スマッシュヒットを達成したことでも知られています。同作は当時日本でヒットしていた『電車男』に便乗し、『バス男』という邦題が付けられており、これが「史上最悪の邦題」と呼ばれるほどに大不評だったこともありました(2013年に原題の『ナポレオン・ダイナマイト』にタイトル変更)。その『ナポレオン・ダイナマイト』の内容といえば、「さえない高校生と周りのイケてないキャラが織りなす、悲哀とおかしみがたっぷりの青春コメディ」であり、「田舎町が舞台」「子どもも大人もダメダメ」「そんな彼らにも意地や大切なものがある」といった、『マインクラフト/ザ・ムービー』と似た特徴を持っています。
また、今作における「問題を抱えたアルパカ」「ズボンのポケットにポテトチップスを入れる」「護身術の道場」といった描写は、その『ナポレオン・ダイナマイト』のセルフオマージュだったりもするのです。
監督の作家性が強く打ち出された今作ですが、決して作り手の独りよがりにはなっていません。原作ゲームにある「創造力」という大きなテーマに回帰することが、監督らしいダメダメなキャラクターの成長物語と密接に絡み、「君にも輝ける場所がある」という大きな希望を示していることも美点です。
さすがに「ゆる過ぎる」ことは難点?
ただ、ちょっとここで映画の難点を挙げるのであれば……キャラクターの関係性などにおける良い意味での「ゆるさ」が今作の魅力になっているとは前述したものの、物語にやや唐突なところ、さすがに「ゆる過ぎる」ツッコミどころが見受けられたのは気になりました。クレイジーさも美点なのですが、裏を返せば「勢いで持っていく」、あるいは「乱暴」な展開もあったのも事実です。同じくゲームを原作とした、ダメダメなチームの結束を描く映画では、『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が掛け値なしに傑作といえるクオリティーだったのですから、今作もそれに迫る物語の作り込みもしてほしかったというのも正直なところ。ただ、今作はゆるさや乱暴さもまた「これはこれで……」といった魅力の範疇(はんちゅう)ではあるので、気にならない人も多いでしょう。
元のタイトルの「A」もけっこう重要かも?
今作の日本タイトルは『マインクラフト/ザ・ムービー』ですが、元のタイトルは『A Minecraft Movie』となっています。この不定冠詞の「A」は、なかなかに大きな意味を持っていると思うのです。なぜなら、「A」が示しているのは「(そのほかにもたくさん)ある1つの」ということ。「THE」であれば指しているものがただ1つだけに限定されるため、『マインクラフト』の唯一の映画化作品であるからこそ、『ザ・ムービー』という邦題も間違ってはいないでしょう。
ただ、タイトルに「A」をつけることで、「(作品内世界において)ほかにも同じような物語がどこかにあるのではないか」という含みを持たせているとも解釈できます。
前述した通り、原作ゲームの『マインクラフト』は「あらかじめ決まっている大きいストーリーがない」「自分で主体的に物語や世界を作っていくことができる」といった特徴があります。
それに伴い、やはり今作のダメダメなチームの活躍も、たくさんの『マインクラフト』の物語の1つであるということを、原題の「A」は示していたと思うのです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



