フランスの店では「傘立て」を見かけない

一般家庭や一部の店舗では置くこともありますが、それでも日本よりは極端に少ないイメージ。「傘ぽん」のような便利アイテムは、やはり日本ならではの細やかな気配りの賜物だと感じます。ちなみに近年、フランスの一部の美術館で「傘ぽん」が設置され、話題になっているようです。
というわけで、フランスでは雨の日になると店舗の床がびしょぬれになります。電車の中でも、「人に迷惑がかかるから折りたたみ傘を畳もう」といった配慮をする人があまりいないような……。傘をさす人が少ないことに加え、びしょぬれでも平気なフランスらしさを強く感じた瞬間でした。
「すぐ乾くから大丈夫」は子どもの頃からの習慣
しかし、フランスの乾燥した気候は、「雨にぬれてもすぐ乾くから大丈夫」というフランス人の言い分を、理屈だけでなく実感としても納得させてくれました。傘をささずにぬれたまま帰宅しても、室内の空気がさらに乾燥しているため、服がすぐに乾いてしまうのです。この乾燥した気候も、「傘要らず」の一因になっているのでしょう。大人になってから渡仏した筆者でさえ傘を持たなくなるのですから、子どもの頃から「傘を持っていきなさい」ではなく「フードを被りなさい」と教えられて育ったフランス人にとっては、傘を持たないことの方が自然だと言えます。
そのため傘は「必需品」ではなく、「あっても良いもの」の1つ。こうした感覚は、傘立てが少ないことや、電車内で折りたたみ傘をしまう習慣がないといった、日常生活における価値観の違いにも表れているように感じています。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。