今までにないほど「渋い」コナン映画に?
コナン映画がなぜここまで信頼されるのかといえば、楽しめる要素の「型」があまりにも強く、友達とでもデートでも家族でも見る選択として「鉄板」であるからでしょう。近作は「アクション映画としての見せ場」「キャラクターの関係性の尊さ」を特に強く推しており、「1年に1回楽しめるエンタメ」として「間違いない」選択になり得ています。それでいて、毎年同じことの繰り返しにもなっておらず、それぞれで人気キャラクターにスポットライトを当てているのも大きな魅力です。
今回の『隻眼の残像』では「長野県警」のメンバーと、「毛利小五郎」を中心に据えており、複雑な「過去の因縁」が理路整然と語られる、大人のキャラクターたちの愛憎渦巻く感情が交錯する「渋め」の作風になっています。
やや大人向けとも言える内容のため、小さなお子さんには今作は厳しいかも? と心配してしまうのですが、いつもながら「少年探偵団」の面々も活躍があったり、ラブコメ要素もしっかり入れ込んでバランスを取っていたりすることも美点でしょう。
また、一部テレビアニメおよび原作のエピソードとリンクしている要素もあり、やや「コア」なファンサービスもあるものの、メインの話は今作だけで成立していますし、冒頭で簡単なキャラクター紹介があるために、予備知識がなくても楽しめるようになっています。いつもの「あらすじ紹介」もあって、「一見さんが入りやすい」ことも、コナン映画が興行を伸ばし続ける理由の1つでしょう。
微妙な阿笠博士のクイズ、小五郎ファンとしての不満も……?
※以下、決定的なネタバレは避けたつもりですが、『隻眼の残像』の一部内容に触れています。そんな風に本作の4DXと内容を称賛しましたが、筆者個人としてはいくつか不満点もあるのも事実でした。以下、少しネガティブな言及となってしまいますが、ご了承ください。
まず、公式Webサイトでも確認できる、恒例の「阿笠博士のクイズ」のクオリティーがちょっとひどいです。毎回「ダジャレ」が主体のたわいのないものながら、けっこう楽しみにしていたのですが、今回は「それだったら全部の選択肢が正解になるよね?」「それが唯一の正解の理屈もあるけど単純すぎるだろ!」とツッコミたくなりました。
肝心のアクションにおける作画と演出にも不満が残ります。銃撃戦での位置関係がやや分かりづらく、場面によっては人が「並行移動」しているように見えたり、クライマックスであるキャラクターが「あの場所」に乗っていたりするのも不自然に感じました。編集においても場面転換の「暗転」に違和感があり、もっとブラッシュアップはできたはずです。
そして、今作のメインキャラクターであるはずの「毛利小五郎」の活躍も満足とは言えません。確かに彼の切実な思いやある美点が強調されているのですが、どちらかといえば長野県警のメンバーの関係性のほうが主軸のため、相対的に小五郎が「ここぞ」という時に「推理」する面白さが後退している気がするのです。
近年のコナン映画では「多くのキャラクターを捌き切る交通整理」に感心することが多いのですが、それと表裏の「要素が渋滞している」難点もやや目立っている印象を受けました。ここはコナン映画の課題であると思いますし、これほど多くの観客を呼び込めるコンテンツなのですから、クオリティーはとことん突き詰めてほしいです。