冬のフランス人は冷たい

曇天が続く冬のパリでは、やはり日照不足の影響なのか、人々の性格も悪くなる気がします。ちょっとしたことで舌打ちが飛んできたり、店員さんの態度も一段と塩気を帯びてきたり。フランス名物であるドライバー同士の怒鳴り合いも、冬になると妙に頻度が増しているような……。
フランス人も慣れているとはいえ、そうした悪態には悪態で返してしまいがちです。そんな張りつめた日常から抜け出し、日本を初めて訪れた筆者の友人は、日本人から受けた「小さな親切」にすっかり心を打たれたと語ってくれました。
寒い時期に染みた、日本人の優しさ
日本を訪れた友人の男性が神奈川県のとある駅で、バスに乗ろうとしていた時のこと。友人はパスポートやカード類をホテルの貴重品BOXに預け、現金を入れた財布のみを持って観光していました。駅前の自動販売機でお茶を買い、目的地の場所まで行こうとバスに乗り込もうとしたところ……「あれ? 財布に入れていた1万円札がない!」──どうやら友人は、お茶を買った際に1万円札を自動販売機の前で落としてしまったようです。
慌てて自動販売機近くのコンビニに寄るも、スタッフからは「届いていない」という返答が。しかしその様子を見ていた別の日本人客が、「一緒に探しましょうか?」と慣れない英語で話しかけてくれたのだそうです。
その人の助けもあって、1万円札は近くのお弁当屋さんが預かってくれていたことが判明しました。こうしてフランス人の友人は、助けてくれた日本人と、現金を拾って保管してくれたお弁当屋さん、そして1万円札が盗まれなかったという“奇跡の三重奏”に深く感動したのです。
フランスでは、現金を落とせばまず戻ってこないのが普通。それだけに、見返りも求めず親切に助けてくれた日本人のことを友人はいつまでも忘れず、ことあるごとに周囲の人たちに話しています。「日本に行くなら冬がいいよ」と切り出し、寒い時期に起きたこの出来事を今も伝道師のように語っています。
日本人の親切心に季節は関係ないと思いますが、人々の気性が荒れがちなフランスの冬と比べると、日本で出会った優しさはなおさら心に染みたのかもしれません。