『モノノ怪』は「定義」と「ルール」にのっとったサスペンス
『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』は、フジテレビの「ノイタミナ」枠で2007年に第1シーズンが放送されたテレビアニメ、その17年越しに2024年に公開された『劇場版モノノ怪 唐傘』に続く劇場版第2弾です。しかし、後述する理由もあってテレビアニメシリーズや前作を見ていなくても楽しめる内容となっています。【関連記事】「2024年夏に見てよかったアニメ映画ランキング」をガチで作ってみた。映画オタクが厳選したベスト5
ジャンルは「限定的な場所で謎を解き明かすサスペンス」。超自然的な現象が巻き起こるファンタジーでありながらも、理路整然とした「定義」と「ルール」にのっとって、事態を解決しようとするのです。その定義とルールを、プレス資料から抜粋してみましょう。
「謎を解くために3つのものを集める」ことはテレビゲームのようでもありますし、状況やセリフから事件の発端を推理する「探偵もの」と言っていい魅力があります。薬売りと一緒に「何が起こっていたのか?」「このセリフはどういう意図なのか?」と頭をフル回転しながら楽しんでみるのがいいでしょう。・モノノ怪……抑えられぬ“ナニモノ”かの情念と妖(あやかし)が結びついた時、生まれるもの。表面上の悲しみではなく、その奥の奥。その本人にしか分からない深い感情と結びつくため、その“理(ことわり)”を知るには時間がかかる。
・退魔の剣……モノノ怪を唯一斬ることができる、主人公の「薬売り」が持つ剣。ただし、退魔の剣は「形(かたち)・真(まこと)・理」を示さなければ抜けず、薬売りはモノノ怪が生まれた真相を暴かねばならない。
・形 ……モノノ怪となりし妖(あやかし)の名。
・真 ……事の有様。モノノ怪が生まれるきっかけとなった事件の、伏せられた真実。
・理……心の有様。モノノ怪となってしまうほどの深い情念、晴らしたい恨み、届けたい気持ち。
『モノノ怪』は「大奥」で描かれる封建社会や女性への抑圧の問題
前作『唐傘』に引き続き、物語の舞台は「大奥」。名家出身の「大友ボタン」が厳格な差配を行っている一方、町人出身ながら天子の寵愛(ちょうあい)を一身に受けているため、御中臈(おちゅうろう)「フキ」との亀裂が深まっていく……といった「対立」が生まれています。
女性が生き方を自由に選べず、「世継ぎ」を巡る謀略が渦巻き、やがて悲しさや苦しい情念が見えてくる様は、チャン・イーモウ監督の中国映画『紅夢(こうむ)』も思わせます。
物語および舞台の根底にある、男性が強大な権力を握り、女性が男性のために「子どもを生むための存在」として見られるといった、封建社会や女性への抑圧の問題もはっきりと描く作品にもなっているのです。


『モノノ怪』は前作から「タイト」「分かりやすい」内容へとシフトチェンジ
前作『唐傘』はアニメとしての表現が絶賛されながらも、物語の方は「よく分からない」「ついていけなかった」などの声も寄せられていました。その難解さや「煙に巻かれる」ような印象もまた魅力といえるものの、正直に言えば複雑な要素をまとめきれていないのではないかと、やや散漫な印象も持ってしまいました。しかし、今回の『火鼠』は「ギュギュッとタイトに仕上げた」「分かりやすい」内容へとシフトチェンジをしている印象です。実際に、中村健治総監督と鈴木清崇監督は、脚本開発や以降の作業においても、要素を「足す」よりも「削る」作業、テーマを明快にするための「剪定(せんてい)」に比重を置いていたそうです。


この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。