
フェミニズムを敵視し、女性や性的マイノリティを盛んに攻撃する男たちは、いったい何なのか。チェ・テソプ氏原著『韓国、男子 その困難さの感情史』(小山内園子/すんみ訳、みすず書房)は、歴史を丹念に追いながら韓国男子の「こじれ」に迫った力作だ。日本も決して無縁でない「男性性」の問題に迫った本作を、文筆家・水上文がレビューする。
男性権力がのさばる世界
どうして世界はこんなにめちゃくちゃになってしまったのか? 私たちはいったい、どうなってしまうのか? ここ数カ月、私はそんな風に思い続けている。2024年12月、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「戒厳令」を出したという、目を疑うようなニュースが入った。韓国市民や政治家の努力によって最悪の事態は食い止められ、安堵(あんど)した矢先、今度はアメリカでドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲いた。トランプ大統領が次々に繰り出すとんでもない大統領令の数々——世界保健機関(WHO)から脱退、出生地主義の見直し、DEIの取り組みは廃止、性別は2つのみだとか、その他もろもろ——と、それに伴って進行するさまざまな出来事は、まさに悪夢のようだった。本当に、続々と伝えられてくるニュースに目を見張るばかりの数カ月だったのだ。
訳の分からないことを言い、行う中高年男性が強大な権力を握り、女性や性的マイノリティを盛んに攻撃している。にもかかわらず、人々の支持を得ている。なぜだろう? もちろん、こうした現状を分析するにあたって、ジェンダーのみを採用することはできない。物事を過度に単純化するのは危険である。
だが、尹大統領が「女性家族部の廃止」を公約に掲げ、フェミニズムに反感を抱く若年男性から熱い支持を得て大統領選に勝利したのは事実だ。またトランプ大統領が、人口1%にも満たないトランスジェンダーという性的マイノリティをやり玉にあげ、就任演説という重要な場面で攻撃してみせたのも、事実だ。
すなわち「男性の権力者が支持を得るために、女性や性的マイノリティへの攻撃を利用している」、しかもその戦略が成功している、という現状は、確かに存在する。ジェンダーは現状の全てを説明し得るものではないものの、非常に有効性のある戦略として、今まさにさまざまな場所で用いられているのだ。
「男性性」の歴史と問題を描く
『韓国、男子 その困難さの感情史』は、韓国の「男性性」に焦点を当てた著作である。韓国でフェミニズム・リブートが起き、ジェンダーに関連した暴力や抑圧への告発が相次いでなされた時期(2017~2018年)に、本書は書かれた。自身も男性である著者は、「誰かを抑圧することなしにひとりの主体として、また、他人と連帯しケアを行う者として生きていけるのか」を問い、「男性性」の歴史とその問題を描き出したのだ。