その場を和ませ、コミュニケーションの助けにもなる笑い。しかし文化が異なれば、笑いのセンスも国ごとに異なります。フランスの笑いは日本とどう違うのか、在住者が解説します。
実は「ユーモア大国」のフランス。日本とは「笑いのツボ」が違う?

筆者が暮らすフランスでは、お笑いのことを「ユーモア」、コメディアンを「ユーモリスト」と呼びます。ユーモリストは昔から人気のある職業ですが、実はフランスでは日常生活にも笑いがあふれていることをご存じでしょうか。
例えば、筆者がフランスの国内線を利用したときのこと。空港で買ったお土産を荷棚に入れようとしましたが、手が届かず、客室乗務員にお願いしました。すると彼女はすかさず、「私にくれるの? ありがとう!」と、見事にボケてきたのです。周囲からもクスッと笑いが生まれたひとときでしたが、彼女はフライト中ずっとユーモアを交えながら接客していたため、乗客から人気者になっていました。
さらに、フランスではコメディー映画やユーモリストのトークショーが大人気。エモーショナルなイメージが強いフランス映画も、実はコメディータッチの作品の方が圧倒的に好まれています。こうした作品が日本であまり公開されないのは、やはり「笑いのツボ」が異なるからなのかもしれません。
そんなフランスのユーモアは、ビジネスシーンでも初対面の場でも、そして気心知れた仲でも大切にされています。笑いを取ることに年齢や性別は関係なく、学校、職場、飲食店など、あらゆる場所で「人間関係の潤滑油」として捉えられています。モテる条件として、「笑いのセンス」が上位に挙げられるほどです。
フランスの笑いはいつから始まっているのか

イギリスから伝わった「ユーモア」という言葉は、フランスでは、1789年のフランス革命の際に広まったと言われています。この言葉は、「エスプリ(才気)」「風刺」「道化」などと並んで使われました。最もよく知られているのは、モリエールの作品のような鋭い社会批評や反宗教的な風刺です。フランスの「風刺画」はこの頃から広まり、国王や女王、聖職者は一般市民の嘲笑の対象となっていました。
時の権力者をからかうのは、フランスの古い伝統です。フランスのユーモアの根底には、このような抗議精神、ポレミック(論争)、社会批判の姿勢が根付いています。つまりフランス人はその歴史的背景から、政治的で反骨精神に満ちたユーモアという、独自のセンスを築き上げてきたのです。これは、イギリスのブラックジョークとはやや異なる特徴を持っています。
現代においても、フランスのユーモリストたちはその伝統を受け継いでいると感じます。彼らはフランス社会を鋭い視点で捉え、ユーモアを交えて面白おかしく語ります。中には、メディアやジャーナリストが伝えない(あるいは伝えられない)内容を代わりに発信することも。国民を笑わせながら、同時に気付きを与える存在だと言えるでしょうか。そういった意味では、ユーモリストたちが人気を集める理由にも納得できます。