世界を知れば日本が見える 第61回

フジ上層部、最初の会見後は「ヘラヘラしていた」と社内の声。中居正広とワインスタイン事件の酷似

中居正広氏が「芸能関係」の女性とトラブルを起こし、巨額の示談金を払っていた事件にフジテレビ社員が関わっていた問題で、フジテレビは窮地に立たされている。筆者が12月初旬から把握していた内容、アメリカの「#MeToo運動」の発端となった事件との類似点を挙げた。

週刊誌の記事は、慎重な姿勢なのが痛いほど分かる内容

筆者が注目したのは、『女性セブン』と『週刊文春』のどちらが先に記事を発表するかだった。Xに投稿した5日後の12月19日の木曜日には、『女性セブン』も『週刊文春』も最新号が発売される予定だったからだ。両誌とも取材を進めており、どちらが先にこの話を世に出すのかを注視していた。

出版関係者の多くは、週刊誌の発売日の前日には「早刷り」と呼ばれる見本誌を入手する。発売前に、どんなラインアップの記事が掲載されているのかが分かるのだが、『週刊文春』の最新号ではその内容を取り扱っていないことが判明。一方で、『女性セブン』が記事を書いていることが分かった。

そして『女性セブン』の記事が先に「スクープ」として報じられることになる。

『女性セブン』の記事を読むと、非常に言葉を選んで書かれているのが分かる。『週刊文春』関係者も記事を受けて「これが書ける限界だったのだろうね……」と言っていたのを覚えている。もちろん記者たちは書かれている以上の情報をつかんでいるものだが、『女性セブン』の記事は慎重な姿勢なのが痛いほど分かる内容だった。それでも、この記事を受けて日本の芸能マスコミは、上を下への大騒ぎになり、後追い記事が続いた。

発売後にフジテレビ幹部に話を聞くと、上層部はそれほど慌てていなかったと言っていた。それよりも、『女性セブン』の記事が出た時点で、既に『週刊文春』の記者たちはフジテレビ幹部らの自宅を次々に直撃取材していたため、翌週にどんな記事を書いてくるのかに戦々恐々としていたという。

そして翌週の12月26日、『週刊文春』が満を持して「中居正広 9000万円 SEXスキャンダルの全貌」という記事を掲載。記事の内容を読んだ『女性セブン』関係者が筆者にメッセージをよこし、「被害者自身がしゃべっている」と驚きを伝えてきた。

というのも、被害女性はフジテレビを退社して新たな道を歩むことを決め、既に順調に活動を行っている。さらには、示談金を受け取って守秘義務もあり、彼女の周囲からは「彼女はこの件についてメディアでは絶対に話すつもりはない」という話が出ていたからだ。

『週刊文春』の記事を受け、フジテレビ幹部は筆者にこう述べている。「まさか本人からコメントを取るとは……文春のすごさを見せつけられた」

「守秘義務」が存在すること自体が、「強引な口止め」の印象を強めている

この記事以降、SNSでは、Xさんの「守秘義務違反」が話題に。「示談金を受け取っているのにマスコミに話をするのはけしからん!」と、中居氏を擁護するような人たちから声が上がっていた。

だがそもそも守秘義務契約をサインする前に、Xさんが近い人たちに被害について相談するのは普通であり、いくらXさん自身が守秘義務に合意した後に人に言わなくなったとしても、その事情を既に知っている周囲の人たちが誰かに話してしまうことを守秘義務契約では阻止できない。

さらに言えば、先に述べたハリウッドのワインスタイン氏も、自分が性的暴行などをした相手には「守秘義務」に署名させるなどをして口止め工作を行っていた。それでも結局、その守秘義務を超えて刑事事件で裁かれる事態になっている。中居氏の事件も“示談”であることで、性的な事件を強引に「口止め」しているという印象が出てしまい、守秘義務を盾に性的事件から逃げおおせるというのはいかがなものかという議論も巻き起こっている。

フジテレビの上層部は「ヘラヘラしている」

こうした事態を受け、フジテレビは定例記者会見の延長として、港浩一社長が出席しこの問題に関する会見を開いた。ところが参加記者を制限したり映像取材を禁じたりするなどお粗末な仕切りで、火に油を注ぐ結果となった。結局、今でも、メディアやSNSで叩かれまくっている。

ただこの最初の記者会見後に、フジテレビ幹部に上層部の様子を聞くと、「港さんをはじめ、上層部は会見で説明責任を果たしたと認識しており、ヘラヘラしている。事の重大さが分かっておらず見てられなかった。許せない」と話してくれた。

そして大きな変化が起きたのは、1月9日の中居氏によるコメントが発表された時だった。中居氏はトラブルがあったことを自ら認めたのである。これ以降、外国メディアもこのニュースを次々報じ始め、日本でもせきを切ったようにメディアがこの件を大々的に報じ始めた。以降、フジメディアホールディングスの外国人の株主らが、フジに内部調査を求めるなどのプレッシャーをかけている。

上層部への不信感を隠さないフジテレビ労働組合は、この件の前には80人しかいなかったメンバーが500人を超え、急増している。労働組合の要求は、経営陣の一掃と、日枝久取締役相談役の退陣だ。そうしないと視聴者もスポンサーも離れていくばかりだ、と認識している。

経営陣を一掃し、生まれ変わるチャンスにもなり得る

今後、この騒動はまだ収まりそうにない。というのも、週刊誌側はこの件に絡んで、また別の被害者にも取材をしているようであるし、今後の展開次第では、さらに垂れ込みという形でさらなる話が週刊誌に持ち込まれる可能性もある。

フジテレビは、真実を語って真摯(しんし)にこの問題と向き合う姿勢を見せなければ、これほどまでに悪化した信用は回復できない可能性がある。ただ逆を言えば、経営陣を一掃して新たな体制で再起を図れば、生まれ変わることもできるチャンスでもある。ここからのフジテレビの動きに注目したい。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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