田口トモロヲ、若葉竜也、深川麻衣のここがスゴい
本作の面白さに大きく貢献しているのは、実質的にトリプル主演といえる3人の演技です。フレンドリーな笑顔を含めてどこか不穏で怖い自治会長役の田口トモロヲ、理解力があるようで流れやすい夫役の若葉竜也、そして徐々に不満をためていくイラストレーター役の深川麻衣と、3者がこれ以上はないと思うほどのキャラクターへの説得力を持たせていました。




まさかの「田舎がイヤだ」映画がほかにも同日公開!
実は1月24日より、奇しくもこの『嗤う蟲』と同様の、「田舎にやってきたら恐ろしい目にあう」というスリラーまたはホラー映画が同日公開されるというミラクルが起きています。4本を一挙に紹介しましょう。1:『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』
「第2回⽇本ホラー映画⼤賞」で⼤賞を受賞した短編映画の長編化作品。幼い頃、失踪した弟がいなくなる瞬間が映されたビデオテープを見た青年が、その謎を解こうとするホラーであり、「ノーCG」「ノー特殊メイク」「ノージャンプスケア(突然大きい音で驚かせることはしない)」という触れ込みがされています。現実にある「不法投棄」という犯罪を参照しており、主人公が向かうのは「捨ててはいけないものも捨てられる⼭」です。その場所で断片的に「この場所で何があったのか」が語られるものの、少なくともその時点でははっきりとはしない、「腑に落ちる」ような回答を簡単には示してくれません。派手な演出を排した「静」の演出で見せていくこともあって、受け手の想像力を喚起するような恐怖を大いに感じられる傑作でした。
2:『悪鬼のウイルス』
同名小説の映画化作品。都市伝説調査の動画の撮影のためYouTuberの若者たちが消息不明となり、彼らのビデオカメラには驚がくの映像が残されていた……という、初めこそ「フェイクドキュメンタリー」的な内容に思えるのですが、メインとなるのはむしろ思いっきり派手な「アクションホラー」であり、いい意味で『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』とは対象的な内容です。
特に吉田伶香の「鉄パイプ」を用いた立ち回りや、『ヴァチカンのエクソシスト』を連想させる田中要次の佇まいや闘い方にほれぼれとする人は多いのではないでしょうか。中盤からはホラーとしてはスタンダードな「あのジャンル」になりつつも、その後もサプライズとエンタメ性でグイグイ持っていく、あなどれない1本です。PG12指定であり、簡潔な殺傷・流血の描写がそれなりにあることにはご注意を。
3:『ヌルボムガーデン』
韓国の実在の心霊スポット「ヌルボムガーデン」を題材にしたホラーであり、自ら命を絶った夫が生前に購入していた郊外の邸宅に住み始めた女性に、さまざまな恐怖が襲い来るという内容です。いわゆる都市伝説を根底にしつつも、ミステリー要素で引っ張り、さらにはさまざまなアイデアの超常現象もあるなど、90分という短めの上映時間に要素を盛り盛りにした内容となっていました。
個人的に最も恐ろしかったのは、「子どもの証言」に関する事柄です。とある恐ろしい目にあったはずの主人公のめいっ子とおいっ子が、翌日にはまったく異なることを口にしており……その理由が明かされる瞬間のサプライズには悲鳴を上げそうになりました。「新しい場所に住む」ことへの不安をストレートに恐怖へと変換した内容といえるでしょう。こちらもPG12指定で未成年の飲酒描写があるほか、なかなかショッキングな残酷表現があるのでご注意を。
4:『おんどりの鳴く前に』
ルーマニアのアカデミー賞にあたるGOPO賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など6冠に輝き、高い評価を得た作品。斧で頭を割られた惨殺死体を巡って連鎖的に何かが起こっていくという、どこか淡々とした雰囲気も含めて映画『ファーゴ』を連想させる犯罪サスペンスであり、ブラックコメディーです。
果樹園を持つことを希望とする独身の中年警官である主人公を筆頭にして、キャラクターそれぞれにどこか「正しくない」部分があり、村での洪水被害を経たそれぞれの思惑が積み重なり、とんでもない事態を引き起こしてしまう様子には、「人間は等しく、愚か。」というキャッチコピーの意味を痛感できるでしょう。クライマックスからラストにかけてのインパクトも絶大なものでした。こちらも簡潔な殺傷・流血の描写によりPG12指定がされているのでご注意を。
「田舎暮らし最高!」な映画を併せて見てみるのもいいかも?
ちなみに、1週前の1月17日より劇場公開中の『サンセット・サンライズ』は「田舎暮らしは天国!」な様が描かれるコメディードラマでした。全編で主演の菅田将暉がかわいらしくて癒されますし、これらの「田舎がイヤだ映画」を見た後には、こちらを見て中和(?)をしてみるのがいいのかもしれませんよ。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。