フランス人にとってはハードルの高い「1人旅」
一方で、旅行に関しては「男1人のロード・トリップ以外は、女性の1人旅なんて聞いたことがない」という意見をもらいました。冒頭でもご紹介したように、フランス女性は特にパートナーと旅に出る傾向が強いのです。もちろん、これはフランスだけに限った話ではありません。治安面で不安の残る地域では、性別に関係なく1人での旅行を避けています。「ソロキャンプ」なども非常に珍しく、1人旅自体が少数派と言えるでしょう。
では「治安が良い国だと1人旅ができるのか?」と聞くと、実はそんなこともないようです。あるフランス人は、「旅は絶対に誰かと行きたい。今はパートナーがいないから、こないだのバカンスは家族と行った」と語りました。
確かにフランスの夏季休暇は数週間と長いですから、その間たった1人では退屈するのかもしれません。こちらからすればわざわざスケジュールを合わせて休みを取ることの方が大変そうに見えますが、フランス社会では「旅行=誰かと行くもの」という方程式が根付いているようです。
身内から受ける「シングル」への圧にうんざりする人も
若い世代のフランス人が嫌っていることがあります。それは、帰省のたびに家族から「いい人できた?」と尋ねられること。フランスの年配層には「おひとりさま」の習慣がやはりありませんので、こうした質問を毎度受けるのだそうです。首都パリでは外食も、映画館や美術館に行くことも1人で問題ありません。デジタル化した現代社会が「おひとりさま」に寛容になりつつあるのは、今や世界の大都市で共通する特徴でしょう。ただし、地方に行けば行くほど、保守的な考え方が根強く残っているのも世界共通だと言えます。
そうした状況もあってか、フランスでも近年では「独身であることの喜び」や「パリで1人で食事ができるお気に入りの場所」と題したネット記事をたくさん見かけるようになりました。シングルであろうとパートナーがいようと、自分で選択できる生き方こそが素晴らしいとするテーマです。
その内容も大変興味深く、文面には「現実を直視しよう!」「カップルの圧はもうたくさんだ!」「自分の皿が唯一の相手だ!」といった強めの言葉が並んでいました。ここからも、どれだけ現代フランス人が「カップル文化」に疲弊しているかが分かります。
ということで今回は、フランスの「おひとりさま」は時と場合によって賛否を分けることが明らかになりました。日本の先進的な「おひとりさま」文化を知るフランス人は少ないかもしれませんが、現状を知れば多くの人が密かな羨望(せんぼう)を抱くのではないでしょうか。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。



