『RRR』のように友人(腐れ縁の悪友)が敵になる切なさも
3人目の主人公が、300人もの荒くれ者を抱え、幕府から京の治安維持と取り締まりを任されている、堤真一演じる警護役の首領・骨皮道賢(ほねかわどうけん)。彼もまた実在の人物であり、豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格は兵衛と似ているようで、したたかに「権力者側についている」という点では正反対の立場なのです。
しかし、かたや一揆を起こす側、かたや幕府側であるため、2人は完全に敵同士にならざるを得なくなるのです。大ヒットしたインド映画『RRR』がそうだったように、「友人が敵同士になってしまう」といった切なさいっぱいのドラマも展開する、というわけです。
三者三様のアクション、そして長尾謙杜の大立ち回りに涙も
魅力的な実質3人の主人公を演じる大泉洋、長尾謙杜、堤真一の演技ももちろん見どころですが、アクション監督の川澄朋章と、京都の殺陣師・清家一斗の参加もあって、3人がまさに「三者三様」のアクションに挑んでいることも本作の大きな見どころです。
彼が「棒術」というかなりの技術が必要なアクションにチャレンジしていることがその理由です。例えばクランクイン前には短めの棒をどこに行くにも持ち歩き、撮影時も“六尺棒”を常に手になじませて「棒は友達」という感覚を体験していたり、前述したムチャクチャな修行シーンや琵琶湖に落ちるシーンなども代役ナシだったりと、長尾謙杜というその人を心配してしまうほどでした。
そして、圧巻なのはクライマックス。長尾謙杜が具体的にどういうアクションをするのかはここでは書かないでおきますが、現場で大きな拍手が浴びたことにも納得する“大立ち回り”には、涙が出るほどの感動がありました。入江監督が映画『サイタマノラッパー』シリーズで培ってきた「長回し」での見せ方もこの上なくダイナミック。「日本映画」という枠を超えた、世界レベルのものでした。
入江監督は「どう考えても人間にこの動きは無理だと思うようなことにも、長尾くんが果敢に挑戦してくれた。彼のエネルギーにたくさん助けられた」と、劇中の才蔵というキャラクターの成長が、長尾謙杜というその人と重なっていたことも含めて称賛していたそう。今後、長尾謙杜の俳優としての成長も見てみたくなりました。
入江監督の作家性が時代劇でも最大限に発揮された
前述した長回し以外にも、入江監督の作家性が、時代劇という題材と見事に合致したことも特筆しておきたいポイントです。
今回の舞台は1461年、応仁の乱前夜の京(みやこ)。大飢饉(ききん)と疫病によりたった2カ月で8万を超える死体が積まれ、人身売買や奴隷労働が横行するいう、人々が貧困にあえいでいた暗黒の時代です。それを打ち破るように一揆を企て命を燃やしていく様は、勧善懲悪な物語としての面白さやカタルシスがあると同時に、つらい立場の人たちの気持ちに寄り添い続けていた入江監督の「らしさ」が明確に表れているのです。

また、舞台が室町時代であり、貧困に苦しむ人々の姿が描かれていること、「師弟もの」としての尊さがあることは、現在公開中の『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』にも通じるポイントでした。アニメで描かれる表現も良いことを前提にして、実写で「ここまで」作り上げた生々しさや実在感がもたらす感動も、本作には間違いなくありました。

その通り、本作はコロナ禍や災害、権力からの圧力など、さまざまな苦しみに見舞われた現実の人にとっての活力になるような映画でもあると思います。エンタメとして楽しむだけでなく、劇中の物語とキャラクターから「不屈」の魂の力強さをも、感じてほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。