「堺打刃物」600年の伝統を引き継ぐ職人たち
シカにめちゃめちゃ癒された翌日、筆者はある人の元を訪れました。大阪といえば、551の豚まんやお好み焼きなどいろんなグルメがありますが、実は大阪の堺市は和包丁の名産地。国内シェア率が90%ともいわれています(出典:大阪公式観光情報Webサイト)。
伝統的な製法で作られる「堺打刃物」は、鍛冶と研ぎの担い手に分かれている“分業制”です。大阪ラバーな筆者ですが、自宅で使っている「堺打刃物」の製造工程は見たことがない。せっかく大阪に滞在するのだから、ぜひこの目で見てみたいと伺いました。
この日、最初に訪れたのは鍛冶屋の「中川打刃物」。史上最年少で伝統工芸士となった中川悟志氏が同社の代表を務めています。今回の訪問では、包丁の素材となる軟鉄や鋼を真っ赤に熱して金槌などでたたき、延ばして鍛える「鍛造(たんぞう)」という行程を間近で拝見させていただくことに。
1本の真っ赤に熱した棒状の鋼材が中川氏の手によって、ものの数分で“包丁”へと形をなす。マニュアルに沿った作業ではなく、その日の気温や鋼材の状況を見て調整を加えながら、最高の1本に仕上げるのです。飛び散る火花をよそに、まばたきも忘れ職人の息遣いを肌で感じながら、作業に見入りました。
鍛冶の後は研ぎを見る!
「中川打刃物」を後にして、次は「山脇刃物製作所」へ。こちらでは、“研ぎ”の現場を拝見。鍛冶屋から回ってきた包丁をロール状の砥石(といし)で、1本ずつ手作業で丁寧に研いでいきます。間近で見るとキーンという音とともに、激しい水しぶきが上がり、思わず「おぉ~!」と声を出してしまいました。
実は同社で刺身包丁を購入予定だった筆者。包丁の柄(え)を自分の好みでセレクトしました。そして、柄を付けるところも見せてもらうことに。木槌で柄の底をトントンとたたきながら、ゆっくり取り付けます。ゆがみなどを調整しながら目の前で自分の包丁が仕上がっていくのを見られるのは、至福です。
筆者宅には数本しか包丁はありませんが、やはり「堺打刃物」は「もう1本欲しい」と思うほど、よく切れます。コロナ禍で“おうち時間”が長くなり、料理を始めたという人も少なくないのでは。包丁の世界は、鋼かステンレスか、使用する鋼材によっても切れ方の感覚が変わるなど、とても奥深い世界です。まだ、「これぞ、My 包丁!」という“1本”をお持ちでない人は、ぜひ、大阪が誇る「堺打刃物」を手に取ってみてほしいですね。より料理が楽しくなりますよ。