K-POPイベントの「突然の中止」「空席ガラガラ」なぜ起こる?
ゆりこ:私も報道で知りました。ステージに近くなるほどチケット代が上がるシステムで、なかなか高額でしたね。 たまたま用事が重なって行けなかったのですが、スッと諦めきれた(笑)。その前にも開催予定だった別の大型イベントが急きょ中止になっていまして。発表された表向きの“理由”とは別に「実はチケットの売れ行きが不振」「スポンサー探しにも苦戦」という声が漏れ伝わってきていました。矢野:僕はもう“K-POPだから”人が集まる、チケットが売れる時代ではないと感じています。ビジネス規模がここまで大きくなり、グループもどんどん増えて、結果的にファンも分散化している。今はもう「K-POPファン」ではなく「〇〇(グループ名・個人名)のファン」という感覚の人のほうが多いのではないでしょうか。
ゆりこ:あぁ……それは私も感じ始めています。2000年代の韓流ファンから始まり、2010年代までは「韓国モノなら全方位に興味津々」「K-POPオルペン(オールファン)」みたいな人が少なくなかった。どちらかといえば私はそっち寄り。でも特にコロナ禍以降にK-POPハマった人の中で、そういったタイプの人は少数派なのかもしれない。日本における韓国エンタメ市場が“秘境のオタク村”から“開かれた大国”に成長拡大した証拠だともいえます。
矢野:今や「知名度のあるグループを複数キャスティングすれば人が集まる」はもう通用しないのかもしれません。合同イベントは、特定のグループだけ追っている人からすると非常にコスパが悪いのがイタいところ……。最悪の場合、数分間で(その人にとっての)お目当てが終わってしまいます。その一瞬のために数万円を支払うのか。それなら単体のコンサートに行ったほうが満足度も高いし、チケット代も安いでしょう。
ゆりこ:ある人にとっては「この値段で1度に数組も見られるなんてラッキー」と思えるメリットも、ある人によってはデメリットになりうるということ。それに“雑食派”の立場からも、アーティストの頭数をそろえればいいってわけじゃない、そのラインアップと構成で果たしてチケット価格は見合っているのか? と問いたいケースもあります。そこに、前回お話しした「推し活費用」の圧迫に経済不安が重なると、お財布の紐もギュッと固くなる。
矢野:あと正直なところ……最近K-POPのアワードや祭典が多過ぎませんか? 前回、年末年始のイベントリストを挙げましたが、それ以外にも1年中何かしら行われている印象があります。
韓国の音楽業界も危惧する中、増え続ける「K-POPアワード」とその背景
ゆりこ:シンプルに「儲かる」のですよね。うまくいけば、というただし書きが付きますが。もちろん韓国の音楽業界も「近年のアワード乱立」を課題として認識しています。どの賞が本当に権威や価値を持っているのかも分かりにくくなっている。長年韓国の音楽業界が育ててきた授賞式や祭典さえもブランド価値が下がりかねない。分散化するとそれに比例してアーティストやファンの負担も大きくなります。それを危惧した「韓国音楽コンテンツ協会」は主催していた「サークルチャート・ミュージックアワード(※3)」を今年から無期限延期としました。2012年から長年続いていたアワードだったのですが、勇気ある英断だったと思います。※3:2022年まで「ガオンチャートミュージックアワード」という名称で開催
矢野:本来であればアーティストの活躍や成し遂げたことをたたえる場だったものが、収益目的の商業イベント化していると。そういえば最近、また新しいK-POPアワードがやっていたのをSNSで見たんです。これまで聞いたことがないタイトルでした。
ゆりこ:「KOREA GRAND MUSIC AWARDS(KGMA)」のことでしょうか。今年から始まったんですよ。KGMAを主催する日刊スポーツ(韓国)は以前、最も歴史の長い「ゴールデンディスクアワード」を運営していましたが、今では中央日報やJTBCを擁する中央グループという別のメディアが主催となっています。だからいっそのこと、自分たちでも新しく始めてみよう!といった具合でしょうか。
矢野:蓄積されたノウハウもコネクションもあるから可能になる。しかしそういう場が増えれば増えるほどアーティストは疲弊しそうです。練習にレコーディング、リリースイベント、そこに国内外のツアーも抱えているわけでしょう。だからといって出演依頼が来たら断りにくいだろうな、とも思うのです。先のイベントのことではないと断りを入れつつ、“出演してくれる人を優先に賞が与えられる”という暗黙のルールもあるのではないかなと……。
ゆりこ:単なる「参加賞」になってしまうのは本末転倒なので、不在のまま受賞する人がいて当然で健全、というのは大前提。ただ実情として、不参加のアーティストが大きな賞を取ると会場の盛り上がりがトーンダウンしたり、出演アーティストのファンから不満の声が上がったりするのも“あるある”です。おっしゃる通り「出演依頼を断りにくい」点も否定できないでしょうね。それは各アワードやイベントの主催者を見れば、自ずと想像がつきます。
矢野:新聞社や放送局……大手メディアが多い。なるべく仲良くしておきたい、少なくとも敵には回したくない存在。HYBEとミン・ヒジンさんのバトルの裏にもメディアを通じた激しい報道合戦がありました。いくらSNSが発達した世の中とはいえ、まだまだメディアの影響力は大きいと思っています。メディアの報じた内容が社会の抱く印象を左右する可能性は十分にあります。
ゆりこ:そして放送局は音楽番組を持っているから決して無視できない、持ちつ持たれつの関係にあります。韓国のメディア企業がいまだにアワードや大型イベントに“うまみ”を感じている間は、なかなか減らないのでは? と思う一方、アーティストとファンの体力や時間、お金にも限界があるので、選ばれるものとそうでないものに分かれて淘汰(とうた)されていく未来が考えられます。そして、また新しいのが出てきてしまうかもしれない(苦笑)。
矢野:その結果、チケット販売不振でキャンセルになったり、空席の目立つイベントも出てくると。結局また最初の話に戻ってきてしまいました。
ゆりこ:実のところ、K-POPイベントの突然中止やトラブルは昔からたびたび起こりますし、今に始まったことではありません。古くからのK-POPファンは「またか」と諦めている部分もあると思いますよ。ただ、その“やらかし規模”が市場とともに年々大きくなってきているようにも感じます。
矢野:主催側としてはうまくいけば儲かるから簡単にはやめられない。でも……かなり根深いものを感じます。ゆりこさんが思う、この背景って何だと思いますか?