『トップガン マーヴェリック』の俳優ヴァル・キルマーの実人生が、「アイスマン」と重なる5つの理由

『トップガン』および『トップガン マーヴェリック』のキャラクター・アイスマンが、同役を演じた俳優であるヴァル・キルマーの実人生とシンクロしていることが分かるドキュメンタリー映画を紹介しましょう。(※サムネイル画像素材:(C) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC. All Rights Reserved)

4:マーク・トウェイン役ともシンクロしていた

さらに興味深かったのは、2014年の『トム・ソーヤー&ハックルベリー・フィン』で、ヴァル・キルマーが『トム・ソーヤーの冒険』の著者であるマーク・トウェイン役に挑んだパートです。

ヴァル・キルマーは、その役を分析するのはもちろん、マーク・トウェインが借金返済の一環として世界中で講演活動を行っていたことが、まさに自身もまた借金を返すために同じように世界を巡って公演していることと重なっている、と語っているのです。
ヴァル
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「役と同じような行動を実際に取っている」もしくは「現実の自分が演じる役と一致しているようにも思える」こともまた、その後の『トップガン マーヴェリック』のアイスマンに通じていることでしょう。

また、ヴァル・キルマーが少年期に兄の1人を亡くしていたこと、それがとてつもなく大きな喪失感であったこともたびたび語られています。そんな事情を踏まえ、『トップガン マーヴェリック』で大切な人を再び失うことを恐れるマーヴェリックに対し、助言をするアイスマンを見ると、より思うことがあるかもしれません。

※以下からは『トップガン マーヴェリック』の重要なシーンに触れています。ご注意ください。

5:「必要だ」と鼓舞しつつも、軽口も言える親友に

ここからは、『トップガン マーヴェリック』の内容について語っていきます(以下のセリフは吹き替え版を参照)。

アイスマンが、文章をタイピングしながらかたくなに訴えるのは「任務の話をしたい」ということ。さらには、マーヴェリックのかつての親友であるグースの息子・ルースター海軍大尉に対して「まだ時間はある」「特訓してやれ」とも助言します。

しかし、マーヴェリックは「俺は教官じゃない。戦闘機乗りだ。海軍パイロットだ。ただの仕事じゃない。俺の生き様だ。それをどう教える?」「あいつを任務に行かせたら、生きて戻らないかも。でも行かせなかったら、俺を許さないだろう」などと返答。

それに対し、アイスマンは「自分の声」で返します。「軍にはマーヴェリックは必要だ。あいつにもマーヴェリックは必要だ。だから、俺は戦った(推薦した)んだ。だから、お前もまだ軍にいる」と。

いずれ軍ではパイロットが必要ではなくなる(無人機に代わる)上に、教官としての自信をなくし、さらには親友に続きその息子まで失ってしまうことを恐れるマーヴェリックに対して、「必要」であることを告げるアイスマンは、どこまでも優しいと思えたのです。

加えて、マーヴェリックが戦闘機乗りであることを「生き様」とまで告げること、それはそのままトム・クルーズの俳優としての人生および、アイデンティティにも言及しているように思えました。「教官」という立場は、これから若い世代に技術を継承していく“ベテラン俳優”としての立場と重ねて見ることもできるでしょう。

そのマーヴェリックを抱きしめたアイスマンは、「最後に1つ、どっちがいいパイロットだ? お前か俺か」と冗談めかして言い、マーヴェリックから「いい雰囲気なのに、ぶち壊したくない」と返されて笑い合います。

それは、ヴァル・キルマーもまた、トム・クルーズと同じ時代の俳優としての人生を生きており、ヴァル・キルマーにとっても「俳優」こそが自身の生き様でありアイデンティであること、なおかつトム・クルーズとは「軽口も言い合える親友」であることを示しているかのようでした。

『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』の中では、『トップガン』の撮影において、ヴァル・キルマーは「役柄上の対立ごっこは楽しいが、現実のトムは互いを助け合う友人だ」とも語っています。その友情が、36年間にわたって続いていたことにも感動があるのです。

マーヴェリックからの「ありがとうアイス、何もかも」というセリフにも、声を失ってなお、再び出演してくれたヴァル・キルマーへに対するトム・クルーズからの感謝を読み取ることができます。
ヴァル
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映画は往々にして、劇中の役柄と俳優の実人生が重なるものです。『トップガン マーヴェリック』は、特に2人の俳優の「これまで」があったからこそ、物語により大きな感動が生まれたと言えます。その感動をさらに深掘りするためにも、ぜひ『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』を見てほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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