トム・クルーズがいたからこそできた作品、そして……
世界中で大絶賛を浴びた『トップガン マーヴェリック』は、日本でも興行収入137億7000万円という記録を達成。世界最高峰のスタッフとキャストにより世に送り出された同作最大の功労者は、主演だけでなく制作にも名を連ねたトム・クルーズであることに異論はないでしょう。『トップガン マーヴェリック』は、前作『トップガン』から36年間、誰にも続編製作権を渡さなかったからこそ紡がれた、「過去」と向き合いながら「未来への道」を探す物語。俳優としての挑戦がそのまま劇中のマーヴェリック海軍大佐とシンクロするなど、「トム・クルーズがいなければここまでの作品になっていなかった」理由がたくさんあります。
前作『トップガン』から「実はイイやつ」なアイスマン
そのことを前提とし、本記事ではアイスマン海軍大将を演じたヴァル・キルマーを推します。トム・クルーズにとっても、今回の『トップガン マーヴェリック』における彼の出演は悲願でもありました。前作『トップガン』から、アイスマンは「イヤミなやつ」のようでいて、「実はイイやつ」「本当に大切なことを言っている」「見終わったら大好きになっている」と称賛されるキャラクターでした。そして、今回の『トップガン マーヴェリック』におけるアイスマンの姿、「ヴァル・キルマーとトム・クルーズとの再共演」そのものにも感動があります。
何より、トム・クルーズに匹敵するほど、ヴァル・キルマーの俳優としての実人生もまた、『トップガン マーヴェリック』のアイスマンという役に重なることを知ってほしいのです。
ここからは、ヴァル・キルマーの実人生をたどったドキュメンタリー映画『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』(U-NEXTで独占配信中、執筆時点)の内容を、5つのポイントに分けて紹介しましょう。
1:実際に咽頭がんに侵されていた
『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』は、ヴァル・キルマーの代表作の未公開映像を用いて、俳優としてのキャリアはもちろん、撮り溜めたビデオ映像により少年時代から実人生を振り返る内容になっています。ナレーションを担当しているのは息⼦で俳優のジャック・キルマー。その話しぶりは、父親の言葉を「代読」しているようにも思えました。 ヴァル・キルマーは2014年に咽頭がんを患い、克服はできたものの、放射線治療と化学療法で声を失ってしまい、機器の⼿を借りてようやく言葉を絞り出せる状態になっています。
ヴァル・キルマー自身も「僕が感じているよりもひどい声」と自虐的な発言をしているほど、その声は聞いていて確かに苦しそうですし、「(チューブのついたプラスチックがあるから)のどの穴をふさがないと話ができない」「呼吸と飲食か(一度には)どちらかしかできないんだ」という状況も語っています。
ちなみに、『トップガン マーヴェリック』劇中でのアイスマンの声は最先端のAI技術を駆使して再現したもの。実際の咽頭がんに侵された後のヴァル・キルマーの声とは異なっています。AI技術のプロジェクトに参加した理由を、ヴァル・キルマーが説明する動画も公開されており、「変わらぬ創作魂をまだ持っている」という言葉などに彼の信念が感じられます。
そして、ヴァル・キルマーの「(咽頭がんを克服できても)以前のように声を出せなくなった」姿は、『トップガン マーヴェリック』劇中における、「余命わずかでしゃべるのもつらい」と語るアイスマンの姿に重なります。
それでも、後述するアイスマン=ヴァル・キルマーの優しさが見えること、劇中のマーヴェリック=トム・クルーズとの関係性にも感動があるのです。