高大連携が増えるわけ
大学が年内入試の枠を増やしている背景には、少子化があります。将来的な18歳人口の減少に伴い定員割れする大学も出てくると言われており、大学も危機感を募らせているのです。そんな中、高校と大学が連携して学習や研究に取り組む高大連携や、さらに踏み込んで法人合併や系属校化する動きも活発になっています。
高大連携といっても内容はさまざま。大学の先生が出前授業をしに来てくれたり、大学の研究室を見学させてもらえたり、中には大学の授業に参加できたり、共同で研究をしたり、それがそのまま単位として認定されるところもあります。中高校生にとっては、卒業後の進路を具体的にイメージするきっかけになるでしょうし、それが今の学習へのモチベーションにもつながるのではないでしょうか。
こうした教育上のメリットのほかに、高大連携で結びつきを強くすることで、その後は指定校推薦の枠をつくる・増やすなど、双方にメリットのある形へと進む可能性も高いです。
その代表例として、「読書プレゼン入試」「オピニオン入試」「プレゼン型(リベラルアーツ入試)」など日本一入試方法の多い学校としてユニークな入試を実施している宝仙学園中学校・高等学校と、医学部を持つ順天堂大学が系属校として協定を締結し話題となりました。
経緯としては、2023年5月に高大連携協定を結び、その後2024年4月から宝仙学園が順天堂大の系属校となり、同大学の医学部への内部進学枠を持つ新コースを設置することが発表されました。
順天堂大学といえば医科大学トップクラスですが、そんな大学でも、できれば年内に入学者を一定程度、確定させたいという思惑があるのです。一方、宝仙学園にとっては、医学部進学枠のあるコースを設けることで志願者が増えることが期待されます。
このような高大連携や系属校化の動きは活発になっており、こうした動向やその中身を見極めていくことも、今後の学校選びでは重要になってきます。
志願者数が増えている学校一覧
ここに前年と比較して志願者が増えている学校のリストがあります。この数字は、首都圏模試センターが2024年9月に実施した模擬試験を受けた受験生が、志望校として名前を入れた学校の志望者数の総数を前年度同月の数字と比較したもので、上位30校の中で100人以上増加している学校が26校もあります。首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成氏いわく、「各学校の人気傾向がダイレクトに反映されている」データです。
この中にある学校は、それぞれの理由があって志望者を集めているのですが、この中にも高大連携を積極的に進めて人気が出ている学校が複数あります。
例えば、三輪田学園は、伝統女子校の中でいち早く法政大学と連携し、30人の推薦枠を得たことで注目されました。日本学園は、26年に明治大学付属世田谷中学校・高等学校となることを見越して入学者を増やしています。さらに順天学園は、北里研究所と法人合併に向けた基本合意書を締結。またグローバル教育に積極的に取り組んでいる佼成学園は国際基督教大学(ICU)と高大連携協定を締結しました。
「志望者数が増えている学校は、このように積極的に高大連携を進めているだけでなく、変化の激しい未来を見据えて教育改革に地道に取り組んでいて、その姿勢が保護者から評価されています」と北氏。
国立大学協会も、「18歳人口の減少に伴い、将来的には選抜という視点に加え、マッチングの視点が重要視されることも考えられる中で、各大学において多様に実施される総合型選抜・学校推薦型選抜は、その重要性を増していくことになる」とし、「学力試験以外の要素を加味した『総合型選抜』・『学校推薦型選抜』などの丁寧な入学者選抜の取組を加速・拡大する」としています。
通信制のZEN大学が認可され、2025年には入学定員3500名規模で開校するなど、今後大学の勢力図も書き換えられていく様相を呈している中、全日制中高で提供される教育内容に対する再評価も必要になってくるのではないでしょうか。
中学受験を考える保護者が何を求めているのかというニーズをつかみつつ、未来を創る子どもたちにどのような教育を行うのか、私立中高の模索も続いていくことでしょう。
受験する側も、何がわが子にとって「お得」なのか、それぞれの軸を持って見極めることが必要です。
拙書『中学受験 親子で勝ち取る最高の合格』(青春出版社)では、わが家の軸の作り方、わが子にあった学校を選ぶポイントを紹介しています。ぜひ参考になさってください。
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。