1位:『がんばっていきまっしょい』(10月25日より公開中)
1998年に実写映画化、2005年にフジテレビ系でドラマ化もされた同名小説が原作の作品で、その最大の特徴と言えるのが3DCGの表現です。
上映前のポスターや予告編からは「ひと昔前っぽい」「違和感がある」といった不安の声も多く聞きましたが、実際に本編を見た人からは、初心者であることも伝わる「ボートをこぐ動き」のリアルさ、昼と夕方それぞれの美しい水面や風景、キャラクターの表情や一挙一動の愛らしさ、ダイナミックなカメラワークでボート競技を見せる様など、3DCGの表現が、その意義を含めて好評を得ています。
近年では映画『THE FIRST SLAM DUNK』やテレビアニメ『ガールズバンドクライ』(TOKYO MXほか)など、革新的な3DCGのアニメが話題になりましたが、この『がんばっていきまっしょい』は、不自然にならないよう動きの一つひとつの綿密な調整、愛媛県松山市でのロケハンが生きた舞台の作り込みなど、既存の3DCGの表現でできることを正攻法で突き詰めたからこそのクオリティーと言えるでしょう。
さらなる特徴は、いい意味で「熱血スポ根もの」ではないこと。実際に櫻木優平監督は『がんばっていきまっしょい』の原作小説を読んだときに最も面白いと感じたのが、「わりと淡々と高校生活を描いているところ」であり、それをベースに「『全国大会とは無緑の普通の高校に通う女の子たちが、ごく普通の学校生活を送っていく過程でちょっと大人になる』というところが、物語の軸になっている」と思ったのだそうです。 確かに今回のアニメ映画も、過去の実写映画も、ボート競技そのものの駆け引きや戦略よりも、櫻木監督の言うように「高校生がちょっと大人になっていく経過を見せる」ことが主軸であり、キャラクターの掛け合いの楽しさなどからはテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』(TOKYO MXほか)や『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』(テレビ東京系ほか)も連想する、「日常系部活もの」的なジャンルの魅力に満ちていました。
実際に筆者個人が感動したのは、ボート競技ではない部分、言葉で全てを説明しない心理描写でした。主人公の「悦ネエ」は過去の挫折により無気力になっていて、その後も客観的には「それほど気にしなくてもいいこと」を気にしてしまう、はっきり言えば「めんどくさい」性格をしています。 しかし、悦ネエの根底には責任感やリーダーシップや優しさがあることも伝わります。そんな彼女が主体的にボート部にのめり込むも、またしても「がんばれなく」なってしまうのですが、その「一人相撲」状態の悦ネエが、自分から「答え」を見つける様と、その後の成長には、とても大きな感動があったのです。
冒頭の演出やキャラクターの関係性の描き方は、2024年5月に公開され一部で強烈な支持を集めた『トラペジウム』にも通じています。「熱血」「根性」が主体のスポーツものとは正反対の作風はやや賛否も呼んでいますが、落ち着いた演出から主体的にキャラクターの内面を読み解くことができれば、きっと楽しめると信じています。 何より、タイトルとは裏腹の「がんばれなくなった」気持ちと、その後の前向きな姿勢……原作を大切にしつつも、そのことに真摯(しんし)に向き合った物語を紡いでくれたことに、心から感謝をしたいのです。
それでも、3DCGそのものに抵抗感がある人は多いかもしれませんが、本編ではすぐに慣れると思いますし、実際にSNSでは「こんなに面白いとは思わなかった」「全体的に隙のない、高いレベルで安定してるタイプのよさ」など、しみじみと称賛をする声が相次いでいます。現時点で上映回数は少なくなっているので、ぜひ劇場情報を調べて、最優先で見ることをおすすめします。
「闇のボート部映画」も公開!
余談ですが、『がんばっていきまっしょい』に続いて、ボート部の青春を描いたアメリカの実写映画『ノーヴィス』が11月1日より公開中です。こちらは新入生の主人公が超努力家……を超えて狂気に取りつかれる「闇のボート部映画」といえるスリラーで、主人公のモチベーションや周りとの関係性など、あらゆる点が「光のボート部映画」こと『がんばっていきまっしょい』とは正反対の内容となっているいるので、併せて見るとそのギャップも含めて楽しめるでしょう。ホラー映画『エスター』の主演でも知られるイザベル・ファーマンが史上最も怖く、また哀しい人物にも思えました。
AI(ロボット)を描く映画が2作同日公開
さらには、『ロボット・ドリームズ』の公開日である11月8日からは、「亡くなった母親の心をAIで再現できるのか」などの問い掛けがされた、同名小説の映画化作品『本心』が公開。人間の生きづらさや悪意を容赦なく描く、大人向けの内容となっています。『ロボット・ドリームズ』と併せて見ると、「AI」に対する価値観の多様性を知ることができるでしょう。2024年に『ぼくのお日さま』『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』でも絶賛された俳優・池松壮亮の演技は、ここにきて神がかりな領域になっていました。