上場後、東京メトロはどう変わるのか?
1. 新線建設の見通し
まずは、計画されている新線建設について。東京メトロは2030年代中ごろまでに、有楽町線の豊洲駅から東西線の東陽町駅を経て半蔵門線の住吉駅に至る支線の延伸開業を目指している。
東京メトロの株式の半分を保有していた東京都が、保有株式の半分を売却する条件として有楽町支線の建設を促進することを挙げていただけに、沿線自治体は歓迎ムードだ。東京都の売却益1600億円超の使い道は未定となっているが、そのうちのある程度が建設資金に回されれば、建設はスムーズに進むのではないか。
計画路線は、もう一つある。南北線の白金高輪駅から白金台を経て品川駅に向かう支線だ。リニア新幹線の起点、さらには羽田空港へのアクセス駅として脚光を浴びる品川駅だが、東京都内にあるいくつものターミナルのうち唯一、東京メトロが乗り入れていない駅なのだ。
この支線の開業によって東京メトロのネットワークは一層充実し、利便性も格段に向上する。資金調達の目途が立ちそうで喜ばしい。
2. 東京メトロと都営地下鉄の一元化
一方、東京メトロと都営地下鉄の一元化は当面棚上げになりそうだ。都営地下鉄の路線は、都内の“一等ルート”とはいえない区間が多く、東京メトロ(前身の営団地下鉄)の食指が動かなかったからこそ、東京都が税金を投入して建設を進めたものだ。民営化した東京メトロとしては、お荷物を背負い込みたくないであろうし、株主も敬遠するであろう。
しかし、都内に2つの異なる事業主による地下鉄が併存するのは、混乱を招くもとである。ましてや事情を知らない海外からの訪日客にとっては不便このうえない。せめて、運賃の共通化くらいは進めてもらいたいと思わずにはいられない。
3. 脱・鉄道依存は進むのか?
上場している鉄道会社の多くは、鉄道事業以外のウエイトが高く、旅客運輸収入が営業収益に占める割合は2割程度かそれ以下である。一方、東京メトロは8割台と高い。新型コロナウイルス禍で旅客収入が大幅に落ち込み、経営が苦しくなった経験を踏まえ、脱・鉄道依存、すなわち不動産や流通業に占める割合を高めようとしている。例えば、株主優待にもある「そば処めとろ庵」は店舗が少なく、大手町、錦糸町、新木場、西船橋など7店のみだ。
また、エキナカ(駅の中)あるいはエキチカ(駅の近く)の商業施設エチカ「Echika」もまだまだ少なく、あっても規模が小さい。エキナカに力を入れているJR東日本と比較すると、はなはだ物足りない。地上に広大な土地を持っているJRと異なり、地下がメインなのでハンディはあるものの、少しでも工夫して充実した駅施設にしてもらいたいものだ。
まだまだ開発の余地は残されている東京メトロ。上場を機に一層の発展を期待したい。
この記事の執筆者:野田 隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。