世界を知れば日本が見える 第54回

中国は「石破首相」をどう見ているか。日中問題で大した抗議ができず、法整備の甘い日本。今後の動向は

10月1日、日本で石破新内閣が発足した。中国で日本人生徒が刺殺される事件が発生するなど、日中関係が緊迫している中、今後の両国の関係はどうなっていくのか。懸念点を整理した。(サムネイル画像出典:Gil Corzo / Shutterstock.com)

アメリカでは、法に準じた登録がなければ「スパイ扱い」。一方、日本は?

実は、日本の政治家には中国寄りの考え方を持つ人が多いと指摘されている。もちろん日本にとっても国際的な調整をするには中国にも人脈は不可欠で、不測の軍事的衝突を招かないためにも、常にチャンネルはオープンにしておいた方がいい。ただし、それは外務省や防衛省などがきちんと関係性とチャンネルを維持しておけばいいことだ。

日本の重要な情報にアクセスでき、日本の対中政策に議員として影響を与える立場にあり、一方でいつ落選するかも分からない政治家が、中国政府などの関係者と深く付き合うのはあまり好ましくない。「票」や「資金」などをチラつかす相手の要求をのむなど、なびいてしまう可能性もある。
 
日本の政治家は在日の中国人などとも親しく付き合っているケースがあるが、アメリカのような国ならもっと慎重なアプローチが求められる。どこかの政府の後ろ盾で、資金を受け取るなどして活動している人は法律で事前に登録しておく必要があり、登録していなければスパイ扱いになる。日本にはそのような制度はないので、やりたい放題の状況にあるのだ。

中国側に大した抗議ができない日本

さらに言えば、石破首相が政権内にどれほど親中国の議員を配置しても、中国と近い政治家などが中国にとって都合のいい立場を見せても、中国が尖閣諸島周辺の領海侵犯や領空侵犯を止めることはないし、反日教育を行ってきた中国が方向転換することはないと考えられる。加えて社会保障や教育などで、中国人が日本国民のための制度を悪用することも止まらない。
 
こんなケースもある。2024年8月、中国軍の情報収集機が長崎県沖の日本の領空を侵犯した。軍用機以外では過去2度にわたって領空侵犯が確認されているが、軍用機の侵犯は史上初となる。この直後、自民党の二階俊博元幹事長や、石破政権で幹事長になった森山裕議員など大勢の日本の政治家らが訪中したが、習近平国家主席にも会えず、中国側にも大した抗議ができずじまいだった。
 
そもそも媚中政治家であっても、台湾有事を回避するなど中国に影響を与えることはできない。筆者は欧米の政府関係者らに話を聞く機会があるが、中国は台湾統一を狙っているのは確かだと認識している人が多い。中華人民共和国の建国100年となる2049年までに、と言う人もいれば、現在3期目の習近平国家主席が4期目の国家主席の座を狙うために任期終了前の2027年までに、という人もいる。少なくとも、現時点では台湾有事は差し迫ってはいないと言える。
 
ただし、そうしている間にも、日本人の間ではどんどん中国人への印象は悪くなっている。日本の特定非営利活動法人「言論NPO」と中国の海外向け出版発行機関の中国国際伝播(でんぱ)集団の調査によれば、中国の印象を「よくない」「どちらかといえばよくない」と答えた日本人の数は、2023年には約92%に上り、2022年の約87%から幅増した。
 
反対に、同じ機関による調査では、日本への印象が「よくない」「どちらかといえばよくない」と回答した中国人の割合は2021年で約66%に上っている。

日本と中国が直接戦闘を行う可能性は?

日本では、飲酒運転で暴走して死亡事故を起こした中国籍の男性が逮捕されたり、「人を殺したかった」という中国籍男性が逮捕されたり、詐欺事件などで逮捕されたりする中国籍の人も多い。日本の靖国神社に不敬なイタズラをしたり、NHKラジオを電波ジャックして中国政府の言い分を勝手に放送した中国人も問題になったばかりだ。今後も中国に対する不信感は高まる可能性が高い。
 
誤解のないように言っておくが、全ての中国人が悪者というわけではない。
 
ただここまで国民同士が嫌い合っていても、日本と中国が直接戦闘を行うことは、現時点において限りなく可能性が低い。何か事を構えることになるとすれば、台湾で緊張感が高まり台湾有事になり、日本が直接巻き込まれるか、アメリカが深く関与した場合だろう。
 
日本国内では、石破政権が10月27日に解散総選挙を行う予定だ。そして自民党で過半数(233議席)の議席を獲得できなければ、石破首相が辞職に追い込まれる可能性がある。石破政権があとどれだけ続くか分からないが、首相が誰であろうが、少なくとも近く中国と衝突することはないだろう。中国は、石破首相と違ってくみしにくい首相が誕生しないよう願っているに違いない。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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