7:「R.M.F.」とは、何のこと?
3話それぞれのタイトルは「R.M.F.の死」「R.M.F.は飛ぶ」「R.M.F.はサンドイッチを食べる」となっています。誰もが「R.M.F.って何? 何の略?」と思うところですが、正直に言ってそのR.M.F.という文面自体にはそれほど深い意味はなさそうで、「気にしなくてもいい部分」だと思います。映画のタイトルも初めは「RMF」にする案があり、その後「AND」にもなったりしたこともあったそうです。結果的に原題は『Kinds of Kindness(優しさの種類)』になったのですが、その理由はランティモス監督が「複数の意味を持つ言葉を使ったタイトルが必要だと気づいたから」だったのだとか。 とはいえ、1話目の冒頭には「R.M.F.」という刺しゅうのあるシャツを着た男がはっきりと登場します。他の章でもちゃんと彼は画面上に写っており、確かに「死」「飛ぶ」「サンドイッチを食べる」様が描かれています。
彼は劇中の物語に組み込まれているようで、後述する「搾取と支配」のサイクルからは逃れられているようにも見えます。R.M.F.は、観客に近い立場の男であり、はたまたこの映画を作る監督や作り手自身ではないか、といった解釈も可能でしょう。
その上で、映画の原題『Kinds of Kindness』および、邦題の『憐れみの3章』も、内容の本質を端的に(あるいは逆説的に)示した秀逸なタイトルに思えました。
8:冒頭で流れる曲がテーマを表現していた
映画の冒頭で流れ、予告編でも使われているのは、イギリスの2人組ミュージシャン・ユーリズミックスによる楽曲『Sweet Dreams(Are Made Of This)』です。日本でも聞いたことがある人は多いであろう、怪しくも耳に残るメロディーが特徴的な楽曲であり、その時点で本作にピッタリなのですが、歌詞を見ると「利用したり、利用されたり。苦しめたり、苦しめられたかったり」といった関係の元で、タイトルさながらの「甘い夢」が作られるという、ある種の「搾取と支配の構造」を表現しているとも解釈できます。
この『憐れみの3章』で描かれた3話それぞれも、なるほどその楽曲の解釈そのまま、「搾取と支配の構造の中にいるけれど、その関係の中に居続けることに耽溺(たんげき)している、そこから逃れない人たちの話」だとも思えます。 往々にして、世の中のさまざまな事象で搾取される側、支配される側が「被害者」と呼ばれるのでしょうが、本作ではそれほど単純な構図でもない、ある種の共依存的な関係のおかしみや恐ろしさを描いているとも言えます。
そして、ランティモス監督は本作について「この物語は人間の条件と行動についての全てだ。 アイデンティティー、支配、 帰属意識、自由への欲求についてである」と端的に述べています。確かに、各章のキャラクターはそれぞれ「自由への欲求」もあるように思えますが、それが果たしてどんな結末を招くのか……そこにもまた、共通点を見つけられるでしょう。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。