世界を知れば日本が見える 第53回

世界は「自民党総裁選」をどう見ているのか。中国とアメリカの視点、そもそも指摘される“野党の責任”

9月27日に投開票が行われる自由民主党の総裁選。この選挙で、次期首相候補が決まり、日本の対外政策に大きな影響を与え得るという意味で世界からも注目されている。(サムネイル画像出典:代表撮影/ロイター/アフロ)

海外メディアでも注目される、日本の“世襲議員”

中国やアメリカ以外では、欧州や中東、アフリカなどの国々ももちろん選挙結果に注目しているが、今回は自民党の総裁を決める選挙であり、与野党が交代するわけではない。つまり首相交代が欧州や中東、アフリカとの利害関係を大きく揺るがすことは考えにくいために、静観している状況だと言える。

さらに、日本で選挙があると、世襲議員が少なくないことも海外で話題になることがある。総裁選でも世襲議員はいて、小泉氏は言うまでもないが、石破氏や林氏、河野氏も父親が国会議員であり、加藤氏の場合は義理の父親が国会議員である。ただ外国政府は世襲であることはあまり気にしていないようだ。

海外のメディアなどでも、これまでの論調を見ていると、日本の世襲政治は両刃(もろは)の剣であるという客観的な見方をしている印象だ。世襲によって、安定性と惰性の両方をもたらしているという。ただ世襲は汚職や社会の流動性の低下につながるとの指摘もあり、特に選挙区では世襲以外の候補が選ばれにくくなり政治環境の停滞を生み出し、さらには不正会計や政治資金の不正使用といった問題につながる可能性が指摘されている。

「野党にも、惰性による政治を打破できない責任がある」

今回の総裁選を踏まえて、改めて海外から日本の政治はどう見られているのかを調べていくとここまで取り上げたような問題に関心があるのが分かる。ただ、日本は自民党がほぼ一党支配を続けてきた特殊な国である。既出の日本の政治にも詳しい元アメリカ政府関係者は、日本の政治についてこんなことも言っていた。

「自民党の是非はともかく、有権者に政権を取れるような別の選択肢を提供できていない野党にも、惰性による政治を打破できない責任があるかもしれないね」

自民党総裁選は、あくまで自民党内のリーダーを選ぶもので、誰になっても自民党政治という枠組みは変わらないし、大きな変化は感じられないだろう。それを安定と見るか惰性と見るか、海外の日本ウオッチャーの中にはそういう視点で日本の政治を観察する人も少なくない。海外的な目線で総裁選を見てみるのも価値があるかもしれない。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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