ヒナタカの雑食系映画論 第117回

『となりのトトロ』はなぜ「姉妹」の物語なのか。宮崎駿監督の優しさと“抱き付くシーン”の感動の理由

2024年8月23日に『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放送される『となりのトトロ』。「姉妹」の物語としての尊さや、“抱き付く”シーンの感動の理由などを、宮崎駿監督の言葉を交えて解説します。(※サムネイル画像出典:(C)1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli)

余談その1:そもそも主人公が「姉妹」になった理由は?

ちなみに、初期イメージボードの段階では『となりのトトロ』の主人公となる女の子は1人だけであり、それはポスターでトトロの隣にいる女の子が1人だけになっていることからも分かるでしょう(しかも、ヘアスタイルや背の高さや着ている洋服が「サツキとメイを合わせたもの」)。

では、なぜ姉妹になったのかといえば、同時上映された高畑勲監督による『火垂るの墓』の上映時間が関係しています。宮崎監督は、『火垂るの墓』の尺が当初予定されていた60分から約80分(実際の上映時間は88分)に延びることを聞き、対抗心に燃えて「映画を長くするいい方法はないか」と言い出し、主人公の女の子を姉妹にすることを思いついたのだとか。一連の流れから、鈴木敏夫プロデューサーは「サツキとメイは宮崎駿の負けず嫌いの性格から誕生したのです」と明言しています。
とはいえ、前述してきた通り、『となりのトトロ』は主人公2人が姉妹だからこそ、サツキの心情が丁寧に描かれた作品になったのも事実。さらに宮崎駿監督自身は、主人公を姉妹にした理由について、「僕が男(しかも4人兄弟でみんな男)だから」「あまりに自分の子ども時代のこととオーバーラップしてしまうものは作りたくない」「僕自身と母親との関係てのは、あんなサツキみたいに親しいものじゃないですからね」とも答えています。

つまりは、「自分ではない」、理想的ともいえる、姉妹や母親との関係を描きたい……そうした宮崎駿監督の気持ちが、「お母さんに髪をといてもらうサツキ」などに明確に表れているのでしょう。

余談その2:「サツキが不良少女になった」ようなアニメ映画も

この『となりのトトロ』のオマージュかもしれないと、振り返って思うアニメ映画も、この2024年に公開されていました。それは『化け猫あんずちゃん』です。
 

主人公は、姉妹のいない小学5年生の女の子「かりん」です。お母さんは亡くなり、お父さんは借金を抱えたロクデナシ。彼女の中にはそうした事情による不満や不安が積み重なり、はっきりと悪意として表出させてしまう……という、前述した宮崎監督の「サツキは不良少女になっちゃう」をそのまま表現したような存在だと思えたからです。

さらに、もう1人の主人公である化け猫あんずちゃんは普段はダメダメな中年で、初めこそかりんに毛嫌いされてしまう一方、その存在が次第に「いるだけ」でかりんの支えになってきていると思える場面もあります。彼女がずんぐりむっくりとした体形のあんずちゃんに「抱き付く」シーンは『となりのトトロ』とは全く違うタイミングでありつつも、やはり感動的だったのです。

『化け猫あんずちゃん』は日本国内の劇場の多くで上映終了となりましたが、8月30日より京都の映画館・出町座、9月6日より下北沢の映画館・トリウッドなどでも上映されます。ぜひ、『となりのトトロ』が好きな人にも積極的に見に行ってみてほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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