3:サツキの不安な心を支えていた「髪をとかす」こと
前述してきた通り、サツキは好奇心旺盛で無邪気な女の子であるはずなのですが、内面ではとてつもない不安を抱えています。劇中でも、終盤では「お母さん、死んじゃったらどうしよう」と言い、こらえきれずに泣きじゃくってしまうのです。お母さんも「あの子たち、見かけよりずっと無理してきたと思うの。サツキなんか聞き分けがいいから、なおのことかわいそう」と言っていました。宮崎監督の以下の言葉からも、サツキの気持ちが表れています。
前述した通り、病室ではお母さんにすぐに抱き付くことができなかったサツキでしたが、それでも「お母さんに髪をといてもらう」シーンがあり、それを宮崎監督は重要だと捉えていたようです。「サツキとメイの関係を見ていくと、メイの方が物をあんまり深く考えないでそのまま生きてるから、メイはあまり鬱屈してないんですよ。で、サツキは絶対鬱屈するんですよ。なぜかというと、良い子すぎる。無理があるんだ、ということをはっきり、こう本人も無理を認めた方がサツキも楽なんです。(中略)一回ね、サツキがどなって、泣いてということをしてあげないと、サツキが浮かばれないと思ったんです。だから、母親が病院で言ってるでしょう、サツキがかわいそうだって。そのくらい理解してあげないと、サツキは不良少女になっちゃうなと思いましたから……」
そして、エンディングの絵についても、宮崎監督はこう答えています。「病院にお見舞いに行ったからって、抱きつくわけにもいかない―つまり、サツキがちょっと恥ずかしくってすぐ寄って行かないのが、もっとなんですね。そうすると、サツキのおふくろさんはどうするだろう……たぶん髪の毛でもとかしてあげるんじゃないかな―そうすることによって一種のスキンシップをやってると思うんです。それが実はサツキを支えているんですね」
サツキはまだ4歳であるメイの「姉」として、しっかりしなければならないという責任感も間違いなくあったのでしょう。しかし、そんなサツキもまだ12歳の女の子。自分たちから離れて入院をしているお母さんのこともあって、子どもらしい不安は蓄積しています。「だから、エンディングの止めの絵も、お母さんが帰ってきたら安心して、普通の子どもにまじって遊んでいるサツキにしたんです。顔も似てるからどれがサツキかわからないくらいで、それでいいんだ。メイも、いつも姉さんにつつき回されてる妹じゃなくて自分よりチビができて、それを引きつれて遊ぶんだというふうにしてあげた方がいい」
サツキの気持ちを、「ついに泣いてしまう」「お母さんに髪をといてもらう」「普通の子どもに交じって遊んでいる」ことで表現する宮崎監督は、どこまでも優しいと思います。