5位:『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:Re:』(8月9日より公開中)
同名漫画を原作としたテレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』(TOKYO MXほか)は2022年の放送時に爆発的な人気を獲得し、アニプレックスのYouTubeチャンネルで公開されたライブ映像『星座になれたら』は2000万回再生を突破、劇中バンド「結束バンド」が現実の野外フェスに進出。アニメファンのみならずファミリー層からも支持を得るなど、もはや社会現象級の盛り上がりを見せていました。
本作は5月に公開された『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』に続く2部作の後編で、上映前のかわいいマナー講座の映像、本編での新規カットとオープニング、何より大スクリーンかつ迫力の音響でライブ映像を堪能できるなど、新たな魅力を十分に提供できていました。
基本的には4人の女子高生がバンドを組む、かわいらしくもほのぼのとした青春音楽劇であり、予備知識なく本作から見ても楽しめるでしょう。ライブ映像の迫力もさることながら、「メイド喫茶のおいしくなる魔法」の作画の良さも堪能でき、さらには人気キャラクターの「喜多郁代」の単なる「陽キャ」というだけではない内面もより伝わってより好きになれたのもうれしかったです。
そして、主人公の後藤ひとり、通称「ぼっち」ちゃんの度を越した「陰キャ」なギャグはやはり切れ味抜群で、共感を抱きつつもその極端さに大笑いできます。同時に、実はそのぼっちちゃんが抱く普遍的な「孤独」にも向き合っている作品であり、意外ではあるけれど納得もできるラストカットは忘れがたい余韻を残してくれました。同じくCloverWorks制作かつ、4人組の女の子の青春を描くアニメ映画『トラペジウム』にも通じている、「電車」という舞台を見事に活かした演出にも注目してみてほしいです。
4位:『めくらやなぎと眠る女』(7月26日より公開中)
こちらは村上春樹の6つの短編小説を原作とした、フランス・ルクセンブルク・カナダ・オランダ合作の作品です。短いエピソードが並べ立てられているようにも見えますが、基本的には「妻の突然の失踪に戸惑う青年」と「謎の“かえるくん”に大地震から東京を救ってほしいと頼まれる男」の2人を軸に捉えると、話を追いやすいでしょう。 中でも注目は、新海誠監督が『すずめの戸締まり』の発想元だと明言している『かえるくん、東京を救う』のエピソードがあることです。特に「ミミズ」というモチーフは『すずめの戸締まり』への影響を強く感じますし、一緒に地震を止めてくれと頼まれるのが「何も持たない中年男性」であり、女子高生が主人公の作品とは異なる、悲哀に満ちた心理描写もまた魅力的だったりします。 20歳未満の喫煙がみられるためPG12指定がされているほか、はっきり性的な話題もあって完全に大人向けの内容である上に、哲学的な思考を促す奇妙な物語が全編で貫かれているため、見る人をある程度は選ぶ作品でしょう。しかし、村上春樹の独特の文体や、“影”を感じさせるキャラクターなどの印象がアニメで表現されているということが面白く、ある種の「浮遊感」や「幻想的」な印象にもまた惹かれるのです。
さらに、日本語(吹き替え)版は『淵に立つ』『LOVE LIFE』などの実写映画で知られる深田晃司監督が演出を手掛けており、磯村勇斗や玄理などの俳優陣による、淡々としているようで奥行きを感じさせる演技も本作にはベストマッチ。“かえるくん”役の古舘寛治はいい意味での「うさんくささ」も含めて最高にハマっているので、それらを期待する人にもぜひ日本語版をおすすめしたいです。