結論から申し上げれば、本作はとっても楽しくて面白い! クスクスと笑えて、見た後はちょっと元気になれる作品として、万人におすすめできます。
さらなる具体的な特徴と魅力は後述するとして、あの『魔女の宅急便』との意外な共通点を先に紹介しておきましょう。
『魔女の宅急便』のマクドナルドのCMと似ている理由
『化け猫あんずちゃん』の監督の1人である久野遥子は、6月に公開されたマクドナルドのCM「魔女のお届けもの ヨーロッパバーガーズ」でアニメーションディレクターおよびキャラクターデザインを手掛けています。このCMの原作は角野栄子による小説の『魔女の宅急便』。多くのファンを持つスタジオジブリによるアニメ映画版とはまったく異なるキャラクターデザインであったものの、「めちゃくちゃかわいい!」「CMだけで終わらせるのはもったいない!」など多数の絶賛が寄せられました。
久野遥子のX(旧Twitter)では、黒猫のジジのしっぽの赤いリボンは原作者の角野栄子のアイデアであることも明かされています。
そして、今回の『化け猫あんずちゃん』では久野遥子は共同監督だけでなくキャラクターデザインも担当しているため、主人公の1人である女の子「かりん」が、このCMでのキキにそっくり!
そのため、同CMのかわいらしさを、長い映像でもっと見たいという人にも、この『化け猫あんずちゃん』はおすすめできるのです。
さらに、
・女の子と不思議な猫という組み合わせ
・女の子が初めて訪れた場所で「仕事」や「出会い」を経て成長する
・自転車の二人乗りをする場面も
・ファンタジー要素がありながらも、基本的には現実的な世界での出来事が展開する
・日常的な描写を主軸としながらも、終盤にはあっと驚くアクションも!
というのも、『化け猫あんずちゃん』と『魔女の宅急便』との共通点だったりもします。
実写をアニメにしていく「ロトスコープ」の利点と魅力
今回の『化け猫あんずちゃん』の最大の特徴といえるのが、「ロトスコープ」のアニメだということ。ロトスコープとは、「実写の人物や風景を撮影して、それをもとにアニメに描きおこす」という手法で、古くは1937年のディズニー映画『白雪姫』、近年では2020年の日本映画『音楽』もロトスコープのアニメでした。ロトスコープの利点の1つは「実写の動きを“なぞる”ためにリアルな動きにできる」こと。厳密にはロトスコープではありませんが、2022年放送のテレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』(TOKYO MXほか)や2023年公開の映画『BLUE GIANT』では、生身の人間の演奏の動きを「モーションキャプチャー」する手順を経ており、だからこそのリアルなライブシーンをアニメで表現することができていました。
そして、この『化け猫あんずちゃん』で感じたロトスコープの主な魅力はそれとは少し異なります。それは実写の俳優による演技が、かわいらしくて親しみやすいアニメに落とし込まれたということ。公開されている「実写とアニメの比較映像」からでも、その面白さは分かるでしょう。
化け猫の「あんずちゃん」を演じる森山未來が猫耳をつけていて、絵で描かれたキャラクターがまったく同じ動きをする様はそれだけでニヤニヤしてしまいます。それ以上に、実写では見た目から「やさぐれた」印象を持ってしまう森山未來が、アニメになると「とぼけた」かわいらしさのほうが強調されるという、味わい深い「変化」をもたらしているのです。
「最初からアニメで描けばいいのでは」と思う人もいるかもしれませんが、現実の風景を基にしているからこそ作品内世界に反映される「実在感」や、実写ならではの「間」もある俳優の演技が心地良く、それはカット数の多い(それはそれで真っ当な)通常のテレビアニメの演出とは異なる楽しさがあると気付かされたのです。
そういう意味で、この『化け猫あんずちゃん』はロトスコープの可能性を広げた記念碑的な1作ともいえるでしょう。
余談ですが、2013年のテレビアニメ『惡の華』(TOKYO MXほか)もロトスコープで作られており、「原作漫画とは異なる絵柄」などに批判の声があった一方、だからこその「いい意味での生々しさ」「居心地の悪さ」「田舎特有の閉塞感」を表現しているといった好意的な意見もありました。
そのことからも、ロトスコープの目指す表現は1つではないことが分かるでしょう。