AIに負けない子の育て方 第11回

中学受験の難化で高い壁も。共働き家庭が、泥沼の受験にしないために知っておきたいこと

子どもの数は減っているのに加熱気味の中学受験。共働き家庭が増えている中、仕事と子どもの受験を両立し、やってよかったと思える受験にするために大切なことは何か。20年以上中学受験を見てきた筆者がお伝えします。

共働きでも最高の結果を出せたわけ

ここからは、実際に仕事を持ちながら中学受験を経験した家庭の例を紹介しましょう。

ガチ受験をした事例

1人目は、ガチ受験をした事例。

子どもが麻布中学校に合格したAさんは、学童代わりに大手進学塾に1年生から通わせていました。4年生からは、中学受験の進学コースに在籍。山盛りのプリント教材で有名な塾です。教材整理や演習にコピーを取ることが多く、時短のために家に業務用のコピー機を買い、いつでも大量にコピーが取れる環境にしたそうです。

また、親が学習に関わりすぎると時間もなくなるうえに、こちらも精神的にキツくなるので、5年生の後半から個別指導塾を併用。あまり効果がなかったので、6年生の1年間、家庭教師に切り替えて受験をしました。

麻布中学校は本人の熱烈な希望だったため、成績はギリギリだったけれどチャレンジしたそうです。結果は、併願校は不合格だったけれど、本命は合格しました。進学塾の過酷な受験の中で、できるだけ家庭を健全に保つために、お金を有効活用した事例です。

習い事と共存した事例

2人目は、習い事と共存した事例。

子どもが慶應義塾中等部に合格したBさんは、1年生から花まる学習会に通い、野球ができる中学校に行きたいという子どもの希望をかなえるために中学受験を選択。5年生から週2日の通塾とオンラインの1:1の個別指導がセットになった中学受験コースに切り替えました。勉強は塾に任せて、もっぱら学校選びと習い事との両立のためのスケジュール管理と健康管理に努めたそうです。

最初は全く考えていなかったけれど、6年生の夏に甲子園で活躍する姿を見て、本人が「あの学校で野球をしたい」と熱望。偏差値的には15の差があり、かなり難しいと思ったけれど、考えても仕方ないので、塾にお任せして、応援していたそうです。結果は、慶應義塾中等部だけ合格しました。

2人とも、本人の「ここにどうしても行きたい!」という気持ちがあったから、頑張れたのでしょう。

「サポートや仕事との両立の仕方は、家庭や子どもによっても全く違ってくるので、どこまでやるかは、自分で探りながら、納得の形を探すのがいいと思う」と言うのは、Aさん。

確かに、住んでいる場所や仕事の環境、子どものタイプによって、事情は異なるので、これが正解というのはありません。ただ、2人とも受験軸がしっかりあったから、ブレずに最高の結果を出せたのだと思います。

親の役割は、覚悟を持って生活リズムを乱さないこと

親としては、家庭学習でも自走してほしいと思うでしょうが、子どもが全てを自分で管理して自力で勉強し、親はノータッチというのはかなり無理があります。

最近は、親自身も中学受験経験者という人も珍しくありませんが、今の中学受験の塾での学習内容は、親世代より数段難しくなっています。この道30年のベテラン塾講師によると、30年前に6年生でやっていた内容を4年生がやっているくらい難しくなっていて、しかも進度も早くなっているそうです。

入試問題も以前のような暗記型の問題中心から思考力を問う問題が増えています。その理由は、時代の変化とともに教育に求められることも変わってきているからですが、塾はこれをテキストの難易度を上げ、膨大な量の演習で乗り越えさせようとしているのです。

これが今の中学受験の現況です。その結果、塾の成績を上げるために、塾の掛け持ちや、深夜まで勉強するのが当たり前になっています。特に6年生になると、寝る時間が23時を過ぎるご家庭も多いのではないでしょうか。それが常識のように語られることに、筆者はずっと違和感を感じてきました。

前述の通り、せっかく入学した学校を続けられなくなったり、親子関係が壊れてしまう事例がたくさんありますが、その大半が、長い間夜更かしの生活を続けたこと。親の期待を一心に背負って、競争にさらされてきた結果なのです。

受験はゴールであると同時に、スタートです。子どもを追い詰めないようにすることが何より大切です。そのためにも、中学受験における親の役割は、生活面と精神面のサポート、そして偏差値にとらわれず、子どもに合った学校選びをすることだと筆者は考えています。(学校選びについては、別に書きますね)

何のために受験をするのか、どんなスタンスで向き合うのか、軸を持てば、暴走することも止められます。

ご自身の仕事と両立させるためにも、お子さんにとってやってよかった受験にするためにも、わが家の軸を持って受験に向き合ってください。

2024年8月末に発売される筆者の新刊『中学受験 親子で勝ちとる 最高の合格』(青春出版社)でも、中学受験を「やってよかった!」で終わらせる方法をご紹介しています。楽しみにお待ちくださいね。


(※)「男女共同参画白書(令和4年版 男女共同参画局)」より

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この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。

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