世界を知れば日本が見える 第46回

「iPhoneに盗聴されている気がする」会話内容が広告表示されるのは“錯覚”か。デジタル広告の正体とは

iPhoneで通話をした後、会話の内容にマッチしたデジタル広告が表示された経験はないだろうか。ちまたでは、盗聴説もささやかれているが、現実としてそれはあり得るのか。デジタル広告の仕組みと実態を探る。

iPhone盗聴
「iPhoneに盗聴されている気がする……」そんなことがあり得るのか
3月、SNSで投稿されたこんなポストが1800万インプレッションを超える注目を浴びた(6月4日時点)。
 
要するに、電話で話をした内容が広告に表示されることがあり、電話の会話がiPhoneに聞かれて広告に利用されているのではないかというのである。実は、オンラインでの議論や、筆者の個人的な知人などとの話からも、この盗聴疑惑を抱いている人は少なくない。

iPhoneの盗聴説は「陰謀論」だが……

ただ先に答えを言うと、通常の電話の会話では内容が盗聴されているとは考えにくい。Apple社は勝手にユーザーの会話を盗聴して広告を表示するために使っておらず、iPhoneが盗聴しているというのは「陰謀論」の類だと言えるだろう。もちろん盗聴をすることは技術的には可能だが、勝手に会話を盗み聞きするというのは、日本のような国によっては違法行為にもなるのでできない。
 
一方で、冒頭の投稿のように、実際に会話した内容にぴったりの広告が表示されることはあるだろう。ただそれは会話を聞かれたのではなく、また、偶然でもなく、その前後にオンラインで関連情報を検索しているなど、別の場所で情報が拾われて広告に使われていると考えたほうがいい。

デジタル広告の仕組みで鍵となるのは「関係性とひも付け」

「自分は検索などしていないのに出てくる!」という人もいるかもしれない。それでいて広告として現れる場合、こんなことも考えられる。通話の相手が、会話に出てくる内容についてかなり情報収集している場合だ。そうなると、その相手から情報やメッセージなどが自分に送られてきた場合も関係性が一致して広告として表示される可能性もある。鍵となるのは、関係性とひも付け、である。
 
例えば、別の人間が同じIPアドレス(ネットアクセスする際の通信の住所)を一定期間使っていたり、SNSから拾われた位置情報などが収集されていたりすると、そこから関係性が割り出され、検索される情報などがひも付けられていく可能性がある。メタデータと呼ばれる通信やオンライン上のデータ記録なども私たちが想像している以上に知らぬうちに集められ、それぞれがひも付けされている。そしてデータは広告目的で売買され、分析されて、広告プラットフォームに使われていく。それが私たちの目の前に広告として現れる。非常に複雑で、想像以上に広範囲にデータは収集され、ひも付けされているのだ。
 
私たちはこれらの情報を意図せずともどんどんスマートフォンやアプリに提供しており、その対価として、無料で便利なアプリを使うことができている。
 
これが、今私たちが暮らすデジタル世界の実態である。

便利と引き換えに、個人情報が奪われるリスクは常にある

「iPhoneに盗聴されていて広告が出る!」からスマートフォンを使いたくない人は、スマートフォンを手放すか、できる限りさまざまなアプリでデータの提供をしないという設定にするしかない。位置情報は常にオフにし、SNSは削除する。ブラウザもデータを拾わないアプリにするしかない。ただスマートフォンとパソコンがひも付けられていれば、ある程度のユーザーデータはいろいろなアプリなどに収集されてしまうだろう。
 
もちろん、デジタル世界から抜け出すと、便利さが失われるだけでなく、今のデジタル依存した世界では生活に支障が出るかもしれない。そう、便利さの裏に、個人情報やデータが奪われるリスクが常にあるというのも、私たちが暮らすデジタル世界の実態であることを忘れてはいけないのだ。
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