劇場版『名探偵コナン』第26作目の本作は、宿敵である「黒ずくめの組織」をフィーチャーしたほか、海洋施設でのミステリー、海中&海上でのアクション、現代的な「ディープフェイク」の問題などが盛り込まれています。そして、最大の特徴であり魅力といえるのは、人気キャラクター「灰原哀」をメインに据えた物語であることでしょう
「灰原哀」への愛情が込められた物語
普段の灰原はドライでクールですが、ときどき見せるかわいい表情やしぐさにノックアウトされた人は数知れず。今回の『黒鉄の魚影』では作り手の彼女への愛情がたっぷりと込められた、かつ後述する「制約」をも生かした作劇も見事な、劇場版『名探偵コナン』でも屈指の傑作だと思います。その5つの理由を記していきましょう。※以下からは犯人の正体を除き、結末を含む『黒鉄の魚影』本編のネタバレに大いに触れています。ご注意ください。また、劇場版第5作目『天国へのカウントダウン』、劇場版第2作目『14番目の標的(ターゲット)』の一部内容も記しています。
1:他人への思いやり「だけではないかもしれない」行動原理
灰原哀は黒ずくめの組織の元メンバーで、当時のコードネームはシェリー。唯一の肉親であった姉が殺され、毒薬で自殺を試みるもののコナンと同様に幼児化して、以降は阿笠博士に保護され居候の身に。コナンのサポート役に回ることが多く、その正体を知らない小学1年生の同級生の歩美、元太、光彦とは友人であるとともに「少年探偵団」の一員となっています。そんな彼女の本質的な性格の1つに「他人への思いやり」があると、冒頭から示されています。老婦人(後述もしますが正体は組織の一員であるベルモット)が欲しがっていた限定品のブローチの整理券を、灰原は「実はちゃんと値段見ていなくて、私には高かったの」というもっともらしい理由をつけて、譲ってあげるのですから。
ただ、このセリフからは、目の前の場所やものが「自分にはふさわしくない」自己否定的なニュアンスも少しだけ感じられますし、「他人のためなら自分を大切にしなくもていい」自己犠牲的な行動原理も働いていたのかもしれません。それは後述する「バイバイだね、江戸川コナンくん」という一連のセリフにもつながっていると思うのです。