映画『オッペンハイマー』で助演男優賞に輝いた有名俳優のロバート・ダウニー・Jrが、オスカー像を手渡す役割だったアジア系俳優のキー・ホイ・クァンを無視したとして「アジア人差別だ!」と物議になった。さらに、映画『哀れなるものたち』で主演女優賞を受賞したエマ・ストーンが、オスカー像を手渡したアジア系俳優ミシェル・ヨーを無視したと批判されたのである。
アジア人は本当にさげすまれているのか
これを受けて、X(旧Twitter)などのSNSでは、実際の映像が拡散され、大きな話題となった。特に、日本人を含むアジア人らから「アメリカのアジア人差別」を訴える声が多数上がっていた。その多くは「私も人種差別を受けている」「アジア人差別は日常」と同調するような投稿で、白人中心の欧米諸国でアジア人がさげすまれていると主張するものが多かったように思う。実際にアメリカでは、SNSのあちこちで声が上がっているように、アジア人差別が日常的に横行しているのだろうか。本稿では筆者の経験も踏まえて、実態を探ってみたい。
アメリカでは、さまざまな人種が差別の対象に
筆者はアメリカにも学生時代から長く住んできた。シンガポールなどほかの国に住んだ経験もあるし、あちこちで長期滞在したことがある。毎年何度も海外には出張に行くし、海外の企業とのやりとり、イベントや会議などに出ることも少なくない。ただ、これまでほぼ、人種差別を受けたことはない。いや正しくは、少なくとも差別を受けていると感じたことはない。ただそれは差別がないという意味ではないし、目にしたことがないという意味ではない。誤解がないように言うが、アメリカのみならず、どこの国でも人種差別はある。それは対象がアジア人だろうが、白人だろうがインド人だろうが、関係ない。
アメリカ・カリフォルニア州の憎悪・過激主義研究センターの調査では、2021年にアメリカでアジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスなどにおいて、前年比で年間339%も増加したという。
ただその背景には、コロナ禍で新型コロナウイルスの発生源が中国だったと報じられたこともあり、アメリカの街頭で「アジア人差別が起きている」といったニュースが頻繁に報道されたこともある。
実は同調査によると、そもそもヘイトクライム自体がアメリカの都市部で46%増加していたという。さらに2021年に、多くの都市で最も差別を受けている人種は黒人だったとも指摘している。地域で見ると、ニューヨークではユダヤ系が最も多く差別を受け、シカゴでは、同性愛の男性が最も多く差別を受けていたことが判明している。
要するに、人種のるつぼであるアメリカでは、さまざまな人種が差別の対象になっている。差別は犯罪と認識されるレベルで、確実に存在するのである。