前置きその1:イルミネーション作品の中でも、より大人に響く内容に
イルミネーションの作品は、いわゆるスラップスティックだったり毒っ気強めなギャグが多かったり、もはやクレイジーなまでの勢いのある展開やアクションがあったりと、ピクサーやディズニー作品とは異なる作風が大きな魅力です。その中で、今作『SING/シング:ネクストステージ』および前作『SING/シング』は、イルミネーション作品ではやや異質ともいえる内容。個性豊かなキャラクターそれぞれのドラマ、特に思うように自己を表現できず、自信をなくして人生に行き詰まるも道を模索する、という過程は大人にこそ響くものでしょう。
ガース・ジェニングス監督が過去に手掛けた実写映画『リトル・ランボーズ』では、理不尽な抑圧の中にいた少年2人が、映画作りを通じて自身と周りの人を変えていく様が描かれており、音楽を通じて自己実現を目指す『SING/シング』にも通ずるところが多かったりもするのです。
前置きその2:公開中の『FLY!/フライ!』にも大人向けの要素が?
3月15日より劇場公開中のイルミネーションによる映画『FLY!/フライ!』も、基本的にはシンプルな冒険物語が展開する子ども向けの内容ですが、「渡り鳥なのに一度も移動したことがない」カモの家族の姿は「決まりきった場所や環境にこだわり続ける」大人の画一的な価値観そのものともいえます。『FLY!/フライ!』の劇中ではなかなかホラー的な展開が待ち受けていたり、物語の流れや得られる教訓は『哀れなるものたち』に似ているところもあったりと、大人こそがニヤリとできる要素も備えているのです。転職や別の場所での暮らしを考えている人にとっては、その後押しをしてくれる(してしまう)作品でもあるでしょう。
なお、イルミネーション最新作『怪盗グルーのミニオン超変身』は7月19日に日本公開予定。さらに、イルミネーションと任天堂による『スーパーマリオ』の新作アニメ映画が制作中で、アメリカを含む多くの国と地域で2026年4月3日(その他の地域では4月中)に劇場公開予定との発表がありました。どちらもまたイルミネーションらしい作品になっていること、そして大ヒットが期待できることはいうまでもありません。
前置きその3:絶賛される理由はたくさんあるけれど……
今作『SING/シング:ネクストステージ』は、これまでのイルミネーション作品以上に、大人からの支持を得た理由に大納得できます。個性豊かなキャラクターたちによるゴージャスさがマシマシになったステージパフォーマンス、楽曲の歌詞を日本語訳した有名楽曲の数々、豪華なボイスキャストによる吹き替え版のクオリティの高さなど、絶賛ポイントは枚挙にいとまがありません。
ただし……物語を振り返ってみると、ファミリー向けの作品であることや、昨今の芸能界や映画業界の事情を鑑(かんが)みても、大きく分けて2つの問題をはらんでいることも、指摘しておきたいのです。以下からは本編の結末を含むネタバレと、ややネガティブな批評を含む内容となっていますので、ご注意ください