知らないと恥ずかしい! 「間違いやすい敬語」を現役アナウンサーが解説

相手への敬意を表すために使われる日本語の敬語表現。ビジネスシーンで必須ですが、中には間違った使われ方をしているものもあります。今回は間違いやすい敬語を、正しい使い方の例文もあわせて、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。

知らないと恥ずかしい! 「間違いやすい敬語」を現役アナウンサーが解説
知らないと恥ずかしい! 「間違いやすい敬語」を現役アナウンサーが解説

取引先や上司との会話など、相手に敬意を表したい場面では敬語表現は必須です。正しい敬語を使うことができればきちんとした印象を与えることができ信頼度も増しますが、気付かないうちに誤った敬語を使ってしまうと信用を損なうおそれもあります。

今回は、日常でよく聞く間違いやすい敬語表現を、正しい使い方の例文とともに、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説していきます。

<目次>
尊敬語と謙譲語の使い分け
二重敬語
ら抜き言葉
させていただきます
~になります
とんでもございません
役職の後ろに「様」をつける
よろしかったでしょうか
了解しました
お名前を頂戴できますか
まとめ

尊敬語と謙譲語の使い分け

敬語はいくつかの種類に分けることができます。一般的なのは、「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類です。このうち、丁寧語は単に言葉を丁寧に表すもので、「〜です」「〜ます」といった語尾が代表的です。これに対して、「尊敬語」と「謙譲語」は動作の主体が相手なのか自分なのかで使い分ける必要があります。

・尊敬語
「尊敬語」は、相手を立てることで敬意を表すもので、目上の相手がとった行動に対して使う表現です。例えば「食べる」の尊敬語は「(先生が)お食べになる・召し上がる」などとなります。「召し上がる」や「おっしゃる(言う)」のように、言葉自体が変化するもののほかに、「お~になる」「~なさる」「~れる・られる」などを使って表現する場合もあります。

・謙譲語
「謙譲語」は、自分がへりくだることで相手に敬意を示すもので、自分自身の行動に対して使う表現です。「食べる」の謙譲語は「(私が)いただく」となります。尊敬語と同様に、「いただく」「申し上げる(言う)」のように言葉自体が変化するもののほか、「お~する」「~いたす」などを使う場合もあります。尊敬語の「お~になる」と、謙譲語の「お~する」は非常に似た表現で混同しがちなので注意が必要です。

【例文】
・来る
尊敬語「いらっしゃる/見える/お越しになる/おいでになる/来られる」
謙譲語「参る/伺う」

・見る
尊敬語「ご覧になる/見られる」
謙譲語「拝見する」

・聞く
尊敬語「お聞きになる/聞かれる」
謙譲語「伺う/拝聴する/お聞きする」

・話す
尊敬語「おっしゃる/お話しになる/話される」
謙譲語「申し上げる/お話しする」

二重敬語

より丁寧に敬意を表そうとすると、さまざまな敬語表現を取り入れたくなりますが、過剰な敬語は「二重敬語」となってしまうので注意が必要です。

「二重敬語」というのは、1つの語に対して同じ種類の敬語を2つ以上重ねることです。例えば、「おっしゃられる」は、「言う」の尊敬表現である「おっしゃる」に、さらに尊敬表現の「〜られる」が重なってしまっています。同様に、「伺わせていただく」も、謙譲表現の「伺う」と「〜させていただく」が重複しているので二重敬語となります。

ただし、「お見えになる」(尊敬語「見える」+「お~になる」)や、「お伺いする」(謙譲語「伺う」+「お~する」)などの言葉は、現在では多くの人が使うようになって定着している言いまわしです。

【例文】
誤「召し上がられる」
正「召し上がる/お食べになる/食べられる」

誤「お見えになられる」
正「お見えになる/来られる/いらっしゃる」

ら抜き言葉

「食べれる」「見れる」などの表現は、現在では多くの人が使うようになっていますので、特に違和感を抱かないという人もいるかもしれませんが、これらの言葉は間違った言葉遣いです。こうした「ら抜き言葉」は尊敬表現としての「~れる・られる」ではなく、「~できる」という可能の意味で使われますが、ビジネスシーンなどでうっかり口にしてしまうと恥ずかしい思いをしますので注意が必要です。

「れる」や「られる」はいずれも動詞の未然形に接続して尊敬表現を表すことができます。「れる」と「られる」どちらを使うべきか判断に迷った場合は、動詞を「~ない」の形(未然形)に活用することで見分けることができます。

「~ない」の形にした時にア段の音で終わる動詞(「歩く:歩かない」「話す:話さない」など)には「れる」がつきます。また、「~する」という形の動詞(「出席する」「反対する」など)の場合も「れる」を使います。これら以外が「られる」を使う言葉ですので見分ける際の参考にしてみてください。

【例文】
誤「来れる」
正「来られる」

誤「決めれる」
正「決められる」

誤「起きれる」
正「起きられる」

させていただきます

「〜させていただきます」という言い回しもよく聞きます。「~させていただきます」は謙譲表現の1つで、これ自体は間違った敬語というわけではありませんが、使う場面によっては不適切になってしまうため注意が必要です。

「〜させていただく」は「〜させてもらう」の謙譲表現で、相手に許可をとった上で何かをする場合に使うものです。営業のためにアポをとって取引先を訪ねる場合などに「訪問させていただきます」と言ったり、相手の許可を得て持ち物などをあらためる場合に「確認させていただきます」とするのは誤りではありません。

これに対して、特に相手に許可をとっていない行動の場合、例えば相手の希望に関係なく決めた担当者があいさつする際に「担当させていただきます」などというのは適切ではありません。自発的にとる行動について謙遜表現にしたい場合は「〜いたします」といった表現を使うと良いでしょう。

【例文】
誤「明日から休業させていただきます」
正「明日から休業いたします」

誤「本日の司会を務めさせていただきます」
正「本日の司会を務めます」

関連記事:若者から大人までが誤用しまくる「~させていただく」の存在感【山田Gのシン・日本語辞典】

~になります

レストランで「ご注文の品はこちらになります」と言われて違和感を覚えたことがある人もいるかもしれません。「〜になります」という表現も注意が必要な敬語です。

「〜になります」は「〜になる」の丁寧語ですが、そもそも「〜になる」というのは状態が変化した場合に使う表現です。例えば、「春から新社会人になります」や、「明日はすっきりしない天気になります」のような場合は「〜になります」を使っても問題ありません。一方で、特に変化のない事実を伝える場合は「〜です」「〜でございます」とするのが良いでしょう。

【例文】
誤「こちらが本日の会議の資料になります」
正「こちらが本日の会議の資料です」

誤「お手洗いはあちらになります」
正「お手洗いはあちらでございます」

とんでもございません

「とんでもございません」は「とんでもないです」の丁寧語としてよく聞く表現です。「とんでも・ない」と言葉を区切って、「ない」を丁寧語の「ございません」に変換した表現ですが、「とんでもない」は、これでひとまとまりの言葉ですので途中で区切って変換することは適切ではありません。

敬語表現にする場合には「とんでもないです」や「とんでもないことでございます」とするのが適切です。また、「恐れ入ります」などの言葉で言い換えるのも良いでしょう。

【例文】
誤「とんでもございません。まだまだ精進して参ります」
正「とんでもないです。まだまだ精進して参ります」
 「恐れ入ります。まだまだ精進して参ります」

誤「とんでもございません。こちらこそ大変感謝しております」
正「とんでもないです。こちらこそ大変感謝しております」
 「恐れ入ります。こちらこそ大変感謝しております」

同様に、「滅相もない」なども「〜ございません」とは言いませんので注意が必要です。

関連記事:「とんでもございません」は間違い? 正しい敬語やビジネスでの使い方、例文をアナウンサーが解説

役職の後ろに「様」をつける

メールや手紙の宛名、また取引先との会話などでよく使われる誤った表現が、「◯◯社長様」というような、役職の後に「様」をつけるものです。「社長」や「部長」などの役職名はそれ自体が敬語表現となりますので、ここに「様」を加えるのは二重敬語となります。「◯◯社長」と役職のみで呼ぶか、「社長の◯◯様」などと表現するのが適切です。

【例文】
誤「××株式会社 〇〇部長様」
正「××株式会社 〇〇部長」「××株式会社 部長 〇〇様」

よろしかったでしょうか

お店で注文を確認される際などに「以上でよろしかったでしょうか」などと聞かれることがありますが、これも誤った表現です。「よろしかった」は「よろしい」の過去形ですから、現在のことを話す際に使うのは適切ではありません。

過去の判断について確認をとるために「~しておきましたが、よろしかったでしょうか」と聞くのは間違いではありませんが、最初に挙げた例のように、今まさに確認をとっているという場面には適さないので注意が必要です。

【例文】
誤「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」
正「ご注文は以上でよろしいですか」

誤「伺いたいことがあるのですが、お時間よろしかったでしょうか」
正「伺いたいことがあるのですが、お時間よろしいですか」

了解しました

「了解しました」は指示を受けた時や、確認をする際などによく使われる表現です。この言葉自体は誤りではありませんが、誰に対して使うのかによっては不適切になる場合があるので注意が必要です。

「了解しました」は「了解した」の丁寧語です。同僚や部下など、自分と同じくらい、もしくは自分よりも立場が下の人に対して使うのは間違いではありません。ただ、先輩や上司、取引先など、より敬意を表す必要がある相手に対して使うのは適切とはいえません。目上の人に敬意を表したい場合は、謙譲表現である「承知しました」や「かしこまりました」とするのが良いでしょう。

【例文】
・上司からの指示を受けて
誤「了解しました。すぐに対処いたします」
正「承知しました。すぐに対処いたします」
 「かしこまりました。すぐに対処いたします」

関連記事:「了解しました」は正しい敬語?承知しましたとの違いや上司への使い方、ビジネスシでの活用法を解説

お名前を頂戴できますか

電話での対応や、来客の受付の際などで聞くことのある「お名前を頂戴できますか」という表現も誤った敬語です。「頂戴する」は「もらう」の謙譲表現ですが、名前は物ではないので人からもらうことはできません。相手の名前を確認したい場合は、「聞く」の謙譲表現「伺う」を使って、「お名前をうかがってもよろしいですか」などとするのが良いでしょう。

また、名刺交換をしたり、名刺をもらって名前の確認を行う場合に、「お名刺頂戴いたします」や「お名刺を頂戴できますか」というのは正しい敬語です。

【例文】
誤「お名前を頂戴してもよろしいですか」
正「お名前を伺ってもよろしいですか」

誤「こちらの紙にお名前を頂戴できますか」
正「こちらの紙にお名前をご記入いただけますか」

まとめ

相手への敬意を表すためにビジネスシーンでは必須の敬語。普段何気なく使っている言葉にも実は使い方に注意が必要なものがたくさんあります。表現自体が誤っているものもあれば、言葉そのものは間違いではないものの、状況によって不適切な表現になるものもあります。

丁寧な表現を心掛けたことがかえって過剰な敬語になってしまったり、よく耳にする言葉が実は間違っているということもあります。この機会にあらためて正しい敬語表現を確認してみてください。

■執筆者プロフィール
酒井千佳
酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news it」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。
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