「ワークライフバランス」という言葉をよく耳にするけれど、いまいち詳しい意味が分からないという人はいませんか。そんな人のために、本記事では「ワークライフバランス」の意味や重要性、メリットなどを現役フリーアナウンサーの新保友映が解説します。実際に取り組みを行っている企業の事例もまとめているので、ぜひ参考にしてください。
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<目次>
・ワークライフバランスの意味とは
・ワークライフバランスの類語と意味の違い
・ワークライフバランスが企業に重視される理由
・ワークライフバランスの重要性と推進のメリット
・ワークライフバランス推進のデメリット
・ワークライフバランス改善のための国家の取り組み事例
・ワークライフバランス改善のための取り組み事例
・ワークライフバランスを改善した企業事例
・まとめ
ワークライフバランスの意味とは
ワークライフバランスとは「仕事」と「生活」を良いバランスで取ることです。以下では、誤解されがちなワークライフバランスの意味や語源について解説します。・誤解しやすいワークライフバランスの本来の意味とは?
「ワークライフバランスを実現する」と聞くと「仕事ばかりに注力せず、私生活を楽しむ」という意味だと判断する人がいます。しかし、これは誤った理解です。ワークライフバランスは、あくまで「仕事」と「それ以外の私生活」を適度なバランスで行うことを指しています。
・ワークライフバランスの現代の一般的な意味
ワークライフバランスは、仕事と生活のどちらかだけに偏らず「うまく調和すること」に意味があります。両方をバランス良くこなすことで、相乗効果が生まれることが大切です。
・ワークライフバランスの語源
ワークライフバランスの概念は、1980年代のアメリカが発祥だといわれています。この頃から女性労働者が増え、政府が仕事と育児の両立を支援するようになりました。子育てをしながらでも仕事に取り組める仕組み作りそのものが、ワークライフバランスの始まりだといわれています。当時の政府の政策には「ワーク・ファミリー・バランス」や「ワーク・ファミリー・プログラム」といった名前がつけられていたそうです。
ワークライフバランスの類語と意味の違い
ワークライフバランスの類語とそれぞれの意味を紹介します。・類語(1)ワークライフインテグレーション
ワークライフインテグレーションは、ワークライフバランスと非常に近い言葉で「仕事と私生活の両方を充実させよう」という点は同じです。ワークライフバランスが、仕事・私生活に一線を引くのに対して、ワークライフインテグレーションはその境目が融合していることが特徴です。分かりやすい例で言うと「ワーケーション」があげられます。旅行と仕事をどちらも線引きなく楽しむ状態は、ワークライフインテグレーションを実践していると言えるでしょう。
・類語(2)ワークインライフ
ワークインライフとは、日本の家具メーカー(株式会社オカムラ)が発信を始めた言葉です。ワークインライフとは、人生(ライフ)の中の要素の1つとして、仕事(ワーク)があるという考え方です。この概念では、家族・友人・趣味・学びなど、自分の人生を彩るさまざまな要素の中に、同列として仕事を位置付けます。仕事と私生活を「対立のもの」として捉えないことが、ワークインライフの特徴と言えます。
・類語(3)ワークファミリーバランス
ワークファミリーバランスは、ワークライフバランスと非常に似ている言葉です。2つの違いは、仕事と両立する対象が「ライフ」か「ファミリー」であるかです。ライフには、家庭生活のほかに、趣味や学びなど広範囲な要素が含まれます。しかし、ファミリーの場合は、子育てや介護など、家庭に関わることに限定されます。
・類語(4)ワークライフマネジメント
ワークライフマネジメントとは「仕事と私生活を自分で管理する」という考え方です。ワークライフバランスと基本的な概念は同じですが、ワークライフマネジメントは個人が自発的に行うことが特徴です。
ワークライフバランスが企業に重視される理由
ワークライフバランスが注目される理由には、主に以下の3点があげられます。・社員の事情に合わせた多様な働き方を認めるため
近年、働く人々の環境は多様化しており、企業側も変化への対応が求められています。例えばテレワークやフレックスタイム制の導入など、従業員が働きやすい環境を整えることも必要です。ワークライフバランスを整えることで、多くの社員に寄り添った働き方の提案ができるようになります。
・長時間労働に対する規制に対応するため
長時間の労働は、従業員にとって強いストレスになるおそれがあります。過労が続くと、モチベーションが低下したり、生産性が下がったりして、会社にとって悪い影響を与えかねません。ワークライフバランスを保つことで、従業員が心身共に健康な状態を維持できる環境を構築しやすくなります。
・離職を防いで人材確保に努めるため
ワークライフバランスが充実している環境であれば、従業員のQOL(Quality of Life)も上がります。仕事や私生活が充実した状態であれば、離職を考える人も少なくなる可能性があるでしょう。ワークライフバランスを整えることは、人材確保にもつながると考えられています。
ワークライフバランスの重要性と推進のメリット
ワークライフバランスの重要性とメリットについて、以下4つの項目を紹介します。・メリット(1)社員の離職率低下につながる
従業員の離職理由として「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」と答えた人は男性の場合、全体の約9%、女性の場合11%にのぼります。従業員が希望する適切な労働時間に近づけられれば、離職率の低下につながるでしょう。ワークライフバランスの実現は、労働環境そのものの見直しとも言えます。(参照元:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」)
・メリット(2)社員の労働意欲が上がりやすい
ワークライフバランスを意識することで、従業員の労働意欲のアップにもつながります。仕事と私生活の両方が充実すれば、結果として高いパフォーマンスを発揮できる可能性があるからです。
・メリット(3)優秀な人材を確保しやすくなる
優秀な人材を確保するためには、ワークライフバランスの充実が欠かせないといわれています。プライベートの時間を充実させられる環境があれば、従業員が自己研さんに時間を費やすことも可能になるでしょう。
・メリット(4)業務効率化の動きが活発になりやすい
ワークライフバランスを会社全体で意識することで、業務効率化もしやすくなります。必要な部分に時間を使えるよう、無駄を省く考え方が身につくからです。
・メリット(5)企業イメージの向上
ワークライフバランスが充実している会社は、外から見た際の企業イメージが良くなります。会社選びの際に「従業員の私生活を大事にしてくれる企業で働きたい」と思う人は多くいます。時には、ワークライフバランスが整っていることを外部にアピールすることも必要でしょう。
ワークライフバランス推進のデメリット
ワークライフバランスを推進することで生じるデメリットには、主に以下の3点があげられます。・デメリット(1)生産性が落ちる可能性がある
従来に比べて「ライフ(私生活)」に重きを置くことで、仕事の生産性が落ちるおそれがあります。仕事と私生活のどちらもバランス良く取り組むことが原則ですが、時間や労力をうまく分配することは、そう簡単ではないかもしれません。
・デメリット(2)仕事に対する熱意が下がる可能性がある
仕事と私生活の両方を重要視することで、結果として会社での業務に対する熱意が下がってしまうことも考えられます。ワークライフバランスを充実させるには、オンとオフの切り替えが大切です。人によっては、切り替えることによってモチベーションが低下し、業務に注力しにくくなってしまうケースもあります。
・デメリット(3)給料を上げづらくなる可能性がある
従業員の私生活を充実させるため休日や休み時間を増やすと、給与を上げにくくなってしまう側面があります。残業代が減ることで金銭的なダメージを受ける従業員もいるため、バランスが重要になるでしょう。
ワークライフバランス改善のための国家の取り組み事例
ワークライフバランスを改善するために、国家が取り組んでいる事例について紹介します。・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章
2007年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されました。憲章とは、国と自治体が共に取り組むべきものとされており、働く人々のワークライフバランスを守るための内容になっています。主に以下3つの柱が掲げられており、国民に寄り添った社会実現を目指すことが目的です。
(1)就労による経済的自立が可能な社会
(2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
(3)多様な働き方・生き方が選択できる社会
・労働に関する法律の整備
2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法案)」が成立しました。これによって、年次有給休暇を取得しやすくしたり、長時間労働を抑制したりする法律が整備されています。そのほかに、政府全体で取り組んでいる「テレワーク普及促進対策」も、ワークライフバランスの実現に寄与しています。
ワークライフバランス改善のための取り組み事例
ワークライフバランスを改善するために、企業が行っている取り組みの事例を紹介します。・事例(1)所定外労働時間の削減
所定外労働時間(残業)を減らす取り組みとして、例えば「毎週水曜日をノー残業デーにする」ことなどがあげられます。残業時間を必要以上に増やさないことで、ワークライフバランスが充実しやすくなるでしょう。
・事例(2)年次有給休暇取得の促進
年次有給休暇が残っていても「実際には取得しにくい」といった環境はよくあります。これらを解消するために、企業側が有給休暇を遠慮なく取得できる状態を整えておくことが肝心です。
・事例(3)キャリア形成と能力開発支援
従業員のキャリア形成や能力開発を支援することも、ワークライフバランスを充実させるポイントです。具体的にはキャリア相談や面談などで、今後の方向性を明確にしたり、研修などによって個々のスキルを高めたりするサポートを行います。
・事例(4)仕事と育児の両立支援
子どもを持つ従業員が働きやすい環境を整えるため、育児との両立支援を行うことも重要です。託児所の設置や金銭的補助、時短勤務などを取り入れている企業が多いでしょう。
・事例(5)心身のヘルスケア
従業員のヘルスケアも企業にとって大切な任務の1つです。ワークライフバランスを充実させるためには、従業員が健やかな状態でいることが肝心です。産業医との連携や定期的なストレスチェックテストの実施などが有効といわれています。
ワークライフバランスを改善した企業事例
ワークライフバランスを改善した企業の実例を紹介します。・企業事例(1)日本郵政グループ
日本郵政グループでは、男性も育児休業取得率100%を目指す取り組みを行っているのが特徴の1つです。また、育児休業は最長で9年(障害がある場合は12年)に設定されています。そのほかにも、病気療養や不妊治療などによって休暇が必要な従業員へのサポートも充実しています。
・企業事例(2)株式会社資生堂
株式会社資生堂の取り組みとして、事実婚や同性パートナーに関わる子育てや介護についても、異性の配偶者の場合と同じように対象としています。また、2022年には130人以上の男性が育児休業を取得した実例もあります。
・企業事例(3)日本マイクロソフト株式会社
日本マイクロソフト株式会社では、年間10日以上の有給休暇を取得できるよう取り組んでいます。また指定の地域に旅行する場合は、会社から最大6万円の補助費が出ることも特徴です。さらに「ワークライフチョイス」と名付けたプロジェクトでは、実験的に週休3日制を取り入れる試みを行ったこともあります。
・企業事例(4)株式会社ブリヂストン
株式会社ブリヂストンは「PRIDE指標」において、最高評価の「ゴールド」を受賞していることが特徴です。※ PRIDE指標とは、 LGBTQなどの性的マイノリティに関する取り組みを評価する指標のこと。そのほかに、キャリアサポートや介護に関するセミナーの開催など、従業員をサポートするさまざまな取り組みを行っています。
まとめ
ワークライフバランスを保つことは、心身の健康を確保し、人生の幸福感を得ることにつながると言えるでしょう。心や体が健康な状態であれば、仕事のパフォーマンスもあがるため、結果として好循環が生まれると考えられます。ただし、ワークライフバランスの実現には、企業と個人の協力が不可欠であることを認識しておきましょう。■執筆者プロフィール 新保 友映(しんぼ ともえ)
山口県岩国市出身。青山学院大学卒業後、2003年にアナウンサーとしてニッポン放送に入社。『オールナイトニッポンGOLD』のパーソナリティをはじめ、『ニッポン放送ショウアップナイター』やニュース情報番組、音楽番組など担当。2018年ニッポン放送退社後はフリーアナウンサーとして、ラジオにとどまらず、各種司会、トークショーMC、YouTube、Podcast、話し方講師など幅広く活動。科学でいじめのない世界をつくる「BE A HEROプロジェクト」特任研究員として、子どもたちの授業や大人向け講座の講師も担当している。