アスリートの育て方 第9回

「あの時、嫌な予感がした」父の死で進路急転。中3で単身故郷を離れた元日本代表・駒野友一の原動力【独占インタビュー】

連載【アスリートの育て方】。元サッカー日本代表の駒野友一は、父親の死、故郷を離れての寮生活、そして選手生命も危ぶまれた大けがといった幾多の試練を、いかにして乗り越え、トッププレーヤーへと上り詰めたのか。

連載「アスリートの育て方」
トップアスリートは、どんな親のもとで育ったのか。わが子をどんな教育方針のもとで育てているのか。幾多の困難を乗り越え、夢を手に入れたトップアスリートの「子育て論」を、『ワールドサッカーダイジェスト』『サッカーダイジェスト』の元編集長でスポーツライターの吉田治良がインタビュー。子どもの夢をかなえるために、親にできることはーーー?


アグレッシブにタッチライン際を駆け上がり、左右両足から正確無比のクロスを撃ち込む──。サンフレッチェ広島やジュビロ磐田などで長年にわたって活躍した“サイドのスペシャリスト”駒野友一が、J3のFC今治で現役生活にピリオドを打ってから、早1年以上の時間が過ぎた。
 
日本代表としても2006年のドイツ大会、2010年の南アフリカ大会と2度のワールドカップ出場を果たすなど、順風満帆のキャリアを歩んできたように映る駒野だが、しかしそのサッカー人生は実に起伏に富んだものだった。
 
父親の死、故郷を離れての寮生活、そして選手生命も危ぶまれた大けが……。幾多の試練を、彼はいかにして乗り越え、トッププレーヤーへと上り詰めたのか。
 
経済的にも恵まれない中でプロになる夢をつかみ取ったその原動力は、どこまでもストイックなメンタリティにあった。 
駒野友一さんの強いメンタルの背景にあるものは?
駒野友一の強いメンタルの背景にあるものは?

突然の父親との死別

「嫌な予感がしたんです」
 
父親が病気で突然亡くなったのは、高校進学を控えた中学3年の秋だった。その日、駒野はサッカー部との掛け持ちで籍を置いていた駅伝部の朝練中に、グラウンドの横を走りすぎる救急車のサイレンを聞いて、胸騒ぎを覚えたという。
 
1時間目の授業中、先生からすぐに家に帰るよう言われた駒野が自宅で目にしたのは、治療の甲斐もなく息を引き取った父の姿。まだ44歳という若さだった。
 
「本当に急でした。前日までは何も変わったところはなかったんです。優しくて、僕のサッカーの試合を遠くから見守っているような人でした。野球が大好きで、幼い頃は一緒にキャッチボールもしましたけど、そのうち僕がサッカーばかりになってしまって……。もしかしたら野球をやってほしかったのかもしれませんね」
 
駒野の人生は、この父親の死を境に急転する──。

サッカー少年団に“飛び級”で入団

和歌山県海南市は、海と山に囲まれた風光明媚(めいび)な町だ。1981年7月25日、駒野はここで共働きの両親の間に長男として生を受ける。2つ上には姉がいて、1年後には弟もできた。
 
「基本的にはいつも外で遊んでいましたね。交通量の少ない山道で友達と野球をしたり、『キャプテン翼』の翼くんをまねして、家から小学校までの15分ほどの道のりをドリブルしたり(笑)。自然がたっぷりで遊ぶ場所には事欠きませんでした」
 
当時はまだJリーグ誕生前で、駒野家のテレビにはいつも巨人ファンの父が好きなプロ野球中継が流れていたが、それでも「ボールを蹴る方が好きだった」という駒野は、自然とサッカーにのめり込んでいく。そして、小学校のグラウンドでいつもボールを蹴っていた姿が、地元のサッカー少年団のコーチの目にとまる。
 
「少年団には本当は小学3年生からしか入れなかったんですが、特別に2年生から入れてもらえたんです」
 
こうして“飛び級”で少年団に入団した駒野は、当初ストライカーとしてめきめきと頭角を現していく。そして、中学に進むと関西選抜にも選ばれ、ここで左足でも蹴れることを理由に左サイドハーフにコンバートされるのだ。
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プロになるため単身広島へ。15歳の決断
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