ドラマ枠の急増に伴い、トラブルも多様化していくことを予想
さて、漫画が原作のドラマが増えていると紹介しましたが、その最大の要因はテレビ局における、ドラマ枠の急増だと考えます。2023年にもテレビ朝日とフジテレビは新たなドラマ枠を設置し、深夜ドラマやBSオリジナルの作品も増えています。過去にないほどドラマ枠を設置したテレビ局は、制作会社も使いフル稼働で作品を制作。俳優はもちろん、制作者も無限にいるわけではないので、これまで以上にコスパが良いドラマを制作する必要があります。
さらに、テレビ局の働き方改革もあり、かつては1週間以上も家に帰らなかったスタッフがいたドラマ現場も、正常な労働環境が求められます。制作する本数が多いのに、早く帰らないといけない……おのずと、人手不足に陥っていきます。
そうなると、漫画を原作にしたドラマは前述した通りに制作しやすく、ドラマの制作サイドが手を出しやすい「宝の山」になることは容易に想像できるところ。
“企画の通りやすさ”がネタにされやすい理由?
ちなみに、筆者はテレビ局勤務時代にバラエティや情報番組がメインで、ドラマを制作したことは一度もありません。ただ、常にネタを出して企画が通らなければ、出世ができないのはおろか制作スタッフとして部署にいられないのはドラマ班も同じでした。今も状況は変わっていないので、ネタとして漫画を原作としたドラマの企画を、提出したくなる気持ちは理解できます。だからこそ、自分が心底愛していない漫画なのに、企画が通りやすいからとネタにしている傾向にあるのではないかと危惧しています。原作へのリスペクトが無ければ、ここ1番の踏ん張りどころで力が出ず、結果として作者にも出版社にも迷惑をかけることになります。
これだけドラマが量産される時代に、プロデューサーや脚本家など作り手が限られていることを考えれば、今後もさまざまなトラブルが作者や出版社と発生するおそれは十分にあります。
しかも、ドラマ枠の急増は、TVerなど見逃し配信サービスが視聴者に受け入れられたことがきっかけだと言われています。これまでならば、ヒットすれば映画化、ダメでもDVD化するだけだったドラマが、TVerなど外部配信で一発逆転を狙うことができ、さらに自社の見逃し配信サービスでも収益化できます。総体的にテレビの視聴率が下がっている中で、ドラマは活路を見いだすコンテンツ。今後も枠が増えることはあれど、減らすことはないでしょう。
そうなれば、乱暴に制作され、改悪と嘆かれるドラマが急増していくことは火を見るよりも明らかです。
テレビ局が新たな施策を生み出さない限り、トラブルは続く
そんな中、TBSはマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」と漫画を共同制作し、これまでドラマ化した『私がヒモを飼うなんて』などを生み出しています。今後は、ドラマ化しやすい漫画をテレビ局も一緒に作るという流れも出来そうで、それによりトラブルも減少してくことが予想されます。今回の芦原さんの悲劇を教訓にするドラマプロデューサーが、どれだけいるかは分かりません。ただ、テレビ局もふくめて、今一度、しっかりと体制の見直しや制作の在り方を考えなければ、ドラマ化に協力する漫画家はいなくなってしまうことでしょう。
この記事の筆者:ゆるま 小林
長年にわたってテレビ局でバラエティ番組、情報番組などを制作。その後、フリーランスの編集・ライターに転身。芸能情報に精通し、週刊誌、ネットニュースでテレビや芸能人に関するコラムなどを執筆。編集プロダクション「ゆるま」を立ち上げる。