「メンター」とは、若手社員に助言や指導を行う先輩社員を指します。この記事では、メンターの意味やメンターに求められる役割、メンタリングの進め方などについてフリーアナウンサーの酒井千佳が解説しています。
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<目次>
・メンターの意味とは
・「メンター」と「OJT」「コーチング」の違い
・メンター制度が必要とされる背景
・メンター制度のメリット
・メンターに期待される役割
・メンターのタイプ
・メンターに適した人材の特徴
・メンタリングの進め方
・メンタリングを行う際のポイント
・まとめ
メンターの意味とは
「メンター」とは、新入社員や若手社員にアドバイスや指導、メンタルサポートを行う社員のことです。元となった英語の「mentor」には、「信頼できる相談相手」「助言者」「良き指導者・先輩」といった意味があります。このように、仕事やキャリアについての悩みなどを気軽に相談できる先輩社員「メンター」との対話や助言を通して、若手の成長を支援する仕組みのことを「メンター制度」と呼びます。企業以外では、大学などで「学生メンター制度」を設けているところもあります。
・メンティーとは?
「メンティー」とは、アドバイスやサポートを受ける側である新卒社員や経験の浅い社員のことを指します。
・メンタリングとは?
メンタリングとは、メンターとメンティーが1対1で対話し、キャリアに関するアドバイスやメンタル面のサポートを行い、社員の成長を支援する人材育成手法、あるいは一連のプロセスそのもののことです。
「メンター」と「OJT」「コーチング」の違い
メンターに似たニュアンスを持つ言葉として「OJT」「コーチング」が挙げられます。それぞれの意味を改めて整理し、違いを確認しておきましょう。
・OJTとの違い
「OJT」とは、「On the Job Training」を略した言葉で、新入社員と同じ部署に所属する先輩がつき、業務のサポートや実務面の指導、教育を行う制度のことです。OJTの目的は、仕事の進め方を学び、業務に必要な知識やスキルを習得することであり、先輩社員との間には明確な上下関係が存在します。
一方メンターは、他部署の先輩社員が担当することが一般的です。また、業務に関することから実務に直接関係しないプライベートの悩みまで、あらゆる相談に乗り、精神的な面を含め後輩社員を総合的にサポートするという点も、OJTとの違いと言えます。
・コーチングとの違い
コーチングとは、コーチ(上司)との対話を通して社員に気付きを与え、目標達成や課題解決に向けた主体的な行動をとれるように促す人材開発手法です。後輩社員をサポートし導くという点はメンターと共通していますが、コーチングは実務に関するより具体的な課題解決をテーマとしています。
また、コーチはアドバイスをせず、質問や問いかけによって後輩社員本人から答えを引き出すことが求められます。一方、メンターは中長期的なキャリア形成や人間関係の悩みなど、より幅広いテーマを対象に対話を行い、時にはメンター自身の経験を交えてアドバイスを行います。
メンター制度が必要とされる背景
メンター制度が必要とされている背景には、複合的な要因があります。かつて、多くの日本企業は終身雇用・年功序列制度を採用していました。どの世代においても先輩・後輩が存在し、「先輩がお手本となって指導し、新入社員は先輩について学ぶ」ことはある種自然なことでした。ところが、バブル経済の崩壊以降、成果主義の方針をとる企業や、上下関係を極力意識しないフラットな組織を目指す企業もみられるようになりました。加えて、働く人の価値観や働き方はますます多様化しています。近年は「転職は当たり前のもの」としてポジティブに捉える人も増え、転職市場はより活発になっています。これらによって、従来型の雇用制度ではみられなかった「入社したら世代の近い先輩社員がいなかった」「中途入社で仕事を教えてもらえない」といったことが起こります。
結果、新入社員は会社になじめず孤立し、時には離職を選択することもあります。メンター制度の導入は、先輩・後輩という関係性を意図的に作り出し、新入社員の効率的な育成と早期戦力化、早期離職の防止を目指す狙いがあります。
メンター制度のメリット
続いて、メンター制度の導入によるメリットをご紹介します。・企業のメリット
メンター制度が企業にもたらすメリットとして、第一に挙げられるのが早期離職の防止です。働く人の価値観が多様化している今、キャリアデザインの自由度がより高まっています。
一方、その会社で自分がどのように活躍していくのか、新入社員が自身のキャリア像を描きづらくなっているのも現状です。メンターがロールモデルとなり、キャリアパスを明確に示すことで、若手社員の早期離職防止が期待できます。また、気軽に悩みを打ち明けられる先輩社員がいることは、新入社員の孤立感や不安感を解消するほか、職場の心理的安全性を高めることにもつながります。良好な人間関係が構築され、コミュニケーションが円滑に行えることで、新入社員が職場の雰囲気に溶け込みやすくなり、人材の定着が図れるでしょう。
もう一つのメリットは、組織の活性化です。一般的にメンターは、他部署に所属する先輩社員が担当します。いわゆる「斜めの関係」が生まれることで部署を超えた交流が発生し、組織力が強化され、よりよい企業文化が醸成されます。
・メンターのメリット
メンター制度は、助言する立場である先輩社員自身の成長にもつながります。例えば、後輩社員が抱える悩みに対し、「どのようなアドバイスをすべきか」「どのように課題解決に導けばいいのか」と思考する中で、自身の考えが整理され、メンター自身も新たな気付きを得られることがあります。
また、メンターの経験を通して習得したマネジメントや人材育成のコツは、将来管理職になった時にも生かすことができるでしょう。
・メンティーのメリット
メンターによるサポートは、メンティーのモチベーションを向上し、後輩社員が本来持っている能力を引き出します。「なかなか仕事を任せてもらえない」「今の部署での仕事が自分に合っているか分からない」など、上司や同じ部署の先輩にはなかなか言い出せないことも、メンターになら打ち明けられるかもしれません。転んだ時にどう起き上がるか、いつ成長の実感を得られたかなど、経験を踏まえたアドバイスが、モチベーション回復、向上のきっかけとなることも少なくないでしょう。疑問や不安が解消されれば、目の前の仕事に集中できるようになります。
また、身近にキャリアの参考となる存在がいることで、メンティーは数年後の自分を客観的に意識することができます。
メンターに期待される役割
メンターに求められるのは、上司として「こうしたほうがいい」という指導者の役割ではなく、本音で話せる良きアドバイザー、サポーター、そしてお手本という役割です。後輩社員が悩んでいたり、失敗して落ち込んでいたりする時には、その気持ちに寄り添い、前向きな考えを持てるようメンタル面のサポートを行います。メンターのタイプ
日本メンター協会によると、メンターには2つのタイプがあります。それぞれの特徴について押さえておきましょう。・話しやすいメンター
話しやすいメンターとは、メンティーと年齢が近い、学歴や職歴に共通した部分がある、同性であるなど、似た価値観を持つ人物のことです。共通点が多くコミュニケーションが取りやすいことから、スムーズなオンボーディングを目的としている場合に相応しい存在でしょう。
・学びのあるメンター
学びのあるメンターとは、年齢や学歴、性別などにおいて、どちらかといえば異なる価値観を持つ人物のことです。メンタリングを通して、互いの考え方やものの見方を“学び合う”ことが狙いです。
メンターに適した人材の特徴
次に、メンターに適した人材の特徴についてみていきましょう。・フラットで対等な姿勢で接することができる
メンターは、先輩という立場ではありますが、メンティーと同じ目線に立って対等に接することが重要です。このことから、メンターはできるだけ後輩社員と年齢が近く、かつ同じような経験を持っている社員が望ましいとされています。
・コミュニケーション能力がある
メンティーの悩みを深く理解した上で、適切な助言につなげるためには、ただ話を聞くだけの姿勢では不十分と言わざるを得ません。傾聴力や共感力、表情やしぐさなどから気持ちを汲み取る観察力など、高いコミュニケーション能力が求められます。
・相手の成長に対する責任感がある
メンターは良き助言者であり、メンティーのキャリア形成に影響を与えうる存在でもあります。自身に与えられた役割を理解し、自覚と責任感を持って育成に取り組める人材であることが重要です。
・職場の状況や人についての情報、知識を持っている
適切な助言やサポートを行うためには、メンター自身が組織の状況をよく理解していること、そして業務に関する十分な知識やスキル、経験を備えていることが必要です。また、人脈が豊富な人材であれば、そのネットワークを共有することで、メンティーも社内に広くつながりを持つことができるでしょう。
・業務上の利害関係がない
メンティーから寄せられる相談は、実務的なことからプライベートの悩みまで多岐にわたります。悩みを打ち明けたことが原因で評価に影響が出たり、周囲の接し方が変わったりしてしまうようなことがあれば、社員は本音で話すことができません。そのため、メンターは直接的な上下関係や、業務を進行する上で利害関係がない人物を選任することが原則です。
・新入社員との信頼関係を構築できる
新入社員との間に信頼関係が構築できる人物であることも大切です。時間を守る、真摯(しんし)な姿勢で話を聞く、相談内容を第三者に口外しないなど、メンティーから信頼されるような行動を取る必要があります。
メンタリングの進め方
メンタリングは、基本的に以下の4ステップで進めます。・(1)傾聴し、共感する
途中で話を遮ったり、否定したりすることなく、後輩社員の話に注意深く耳を傾けます。適度にあいづちを打つ、うなずくなどして肯定・共感の態度を示しましょう。このような反応を返すことで、メンティーは「自分の話を聞いてくれている」という安心感を得ます。また、話しているテンポやトーン、しぐさなどにも注目しましょう。
・(2)情報を整理する
情報を整理して簡潔にまとめます。客観的な事実を軸にし、メンターの主観を交えないよう留意します。ネガティブな言葉をポジティブな表現に言い換えて伝えるなど、前向きなアドバイスにつなげることを意識しましょう。
・(3)質問を投げかける
適宜質問を投げかけます。質問の目的は、情報を得るためではなく、メンティーの思考の整理や課題解決のヒントを引き出すことです。
・(4)対話を重ねて気付きを促す
メンティーと対話を重ね、本人の気付きを促します。メンターは聞き役としてヒントを与える程度にとどめ、答えを与えたり、具体的な解決方法を指示したりすることは避けましょう。
メンタリングを行う際のポイント
最後に、メンタリングを行う際に意識すべきポイントと注意点をご紹介します。・命令や強制、説教をしない
メンタリングでは、互いが対等な立場であることが前提です。たとえ良かれと思っても、命令や強制、あるいは注意や説教をしないよう注意しましょう。主観・主張の押し付けや、一方的な決めつけ、強制は、メンティーを萎縮させてしまうだけでなく、信頼関係を壊してしまうことにもつながりかねません。また、対話の中ではネガティブな思考や愚痴、偏見などの好ましくない発言が出るかもしれませんが、「それは良くない」と注意するのではなく、気付きにつながるような声かけを心がけましょう。
・個人の違い、成長スピードの違いを理解、許容する
メンティーが持つ価値観や物事の捉え方、成長のスピードは一人ひとり異なります。アドバイスを理解して実践し、すぐに問題解決につなげられる人もいれば、成果が目に見えるまでに時間がかかる人もいます。過去に担当した後輩社員と比べたり、変化がみられないことに焦ったりせず、個人差を許容し、長い目で成長を見守ることが大切です。
・守秘義務を遵守する
メンタリングの中で得た情報は、本人の承諾がない限り他言せず、秘密を守る義務があります。同意なく他人に情報共有されていることがわかれば、メンターへの信頼は失われてしまいます。もし、業務に関することで直属の上司などに共有が必要だと感じても、必ず事前に確認をとりましょう。
・評価にひも付けない
メンタリングの相談内容は、評価にひも付けてはなりません。メンターを信頼し、思い切って相談したことが上司などに知られ、メンティーの評価に影響するようなことがあれば、メンティーは不信感を覚え、場合によっては離職を選択することもあります。「評価にひも付けられないからこそ本音が言えて、解決につながる」という道筋があることを理解しておきましょう。
・信頼関係を築く
業務のことや人間関係のこと、プライベートの悩みなど、メンティーに本音で話してもらうためには、信頼関係を築くことが何よりも大切です。どんなことでも「一緒に解決策を考える」「サポートする」という姿勢を示しましょう。
まとめ
メンターとは、新入社員や若手社員にアドバイスや指導を行う先輩社員のことで、そのサポート範囲は業務だけにとどまりません。メンター制度は、新入社員の自発的な成長、早期離職の防止といった効果が期待されており、サポートを受ける社員だけでなく、メンター、企業にとってもさまざまなメリットがあります。組織を活性化し、よりよい人材育成を進めるためにも、ぜひメンター制度を活用してみてください。■執筆者プロフィール 酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news it」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。