JR鶴見線のミニトリップ
鶴見線の鶴見駅は京浜東北線のホームとは離れた位置にあり、京浜東北線のホームから階段やエスカレータで上の階に行き、西側に進んだ先にある。かつては、キセル(不正乗車)防止などのために中間改札があったけれど、現在は撤去され、そのまま鶴見線のホームに出る。日中は手前の3番線ホームだけが使われ、電車は20分ごと。 行先は、本線の終点・扇町行きのほか、浜川崎行き、武蔵白石行き、海芝浦行き(1時間20分ごと)と変化に富んでいる。大川行きは朝夕のみ、扇町行きも日中は2時間ごとなので要注意だ。いずれにせよ、浅野駅までは、日中でも20分ごとなので、この区間でふらりと途中下車しても途方に暮れることはなかろう。 鶴見駅を発車すると、古びた高架線上を複線で進む。すぐにホームの廃虚脇を通過する。本山(ほんざん)駅といって總持寺の最寄り駅だったが、鶴見駅からあまりにも近いのと戦争中の燃料統制による停車駅削減の方針により、1942年に廃止された。 左にカーブして横須賀線、京浜東北線、東海道本線、貨物線、京急線を一跨ぎすると国道駅に停車する。国道という普通名詞が駅名になっているのは珍しい。国道とは第一京浜(国道15号線)との交差地点にあるため命名されたものだ。2つのホームの屋根をアーチ状の鉄骨でつなぎ、架線をつるすというなかなかに優美な形となっている。ホーム下の通路は薄暗いけれど、昭和初期の雰囲気を今に残しつつ、天井がアーチ状のしゃれた形となる古風ながらも貴重な空間だ。 鶴見川を渡り、地上に降りると鶴見小野駅。この先は、工場地帯となり、JFE、東芝、富士電機や物流倉庫などが立ち並ぶ。 駅名も弁天橋の先は、浅野(浅野財閥の創設者浅野総一郎)、安善(安田財閥創業者安田善次郎)、武蔵白石(日本鋼管創業者白石元治郎)、大川(製紙王・大川平三郎)など事業所ゆかりの人名によるものが並ぶ。
ユニークな人気駅、海芝浦
鶴見線でユニークな駅は、浅野駅から分岐する海芝浦支線の終点、海芝浦駅だ。ホームのすぐ下は京浜運河。海に面した駅として知られる。改札口の先は東芝の工場なので、社員や所用で訪問する人以外は立ち入れない。しかし構内に鉄道ファンなど一般客のために海芝公園が設置され、海に面した風景が楽しめる。工場夜景がきれいなことで知られ、隠れたデートスポットでもある。ただし、電車の本数が極めて少ないのであらかじめ列車ダイヤをチェックして訪れたい。 古びた電車が走ることで知られた鶴見線は、今、変革の時を迎えている。都会のローカル線としても人気がある路線なので、平日の昼間や土休日に訪れて、人であふれる都会にあって穴場的な静かな雰囲気を楽しむのも一興であろう。
この記事の筆者:野田隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。