ヒナタカの雑食系映画論 第65回

思わず現実を連想する……「世界の終わり」を描いた終末映画5選。宮崎駿アニメからの影響も

「世界の終わり」へと向かう様を描く「終末映画」を5つ紹介しましょう。はじめに紹介するのは、『風の谷のナウシカ』を強く連想させる作品です。 ※画像出典:(C) 2022 Vesper - Natrix Natrix, Rumble Fish Productions, 10.80 Films, EV.L Prod

3:『ノック 終末の訪問者』(Amazonプライムビデオで配信中)

『シックス・センス』や『ハプニング』などのM・ナイト・シャマラン監督作品です。シチュエーションは「4人の武装した男女が、山小屋の家族を人質に取る」というもの。しかも、彼らの要求は「家族の犠牲か、世界の滅亡かを選べ」という究極の選択をさせる、狂気に満ちたものだったのです。

G(全年齢指定)では甘いと思わせる(津波と地震を含む)ショッキングなシーン、かなりストレスの強い展開が続くため、ある程度は見る人を選ぶでしょう。シャマラン監督作で期待されがちな「やられた!」と思えるどんでん返し的なラストとは少し印象が異なることもあって、かなり賛否が分かれている作品でもあります。

しかし、「狂ったカルト集団か」「それとも真実を言っているのか」と、この映画を見る観客も疑心暗鬼になっていく、いい意味でイヤな気分になれる作劇にはグイグイと惹き込まれるものがあるはず。シャマラン監督の作品にある「理不尽な悲劇が起こる世界の中で、自分に与えられた役割や使命に気付き、選択し行動する」作家性は存分に発揮されているので、そこに注目してみるのもいいでしょう。

4:『世界の終わりから』

『CASSHERN』『GOEMON』の紀里谷和明監督が自身最後の作品であると銘打った映画で、間違いなくその最高傑作だと断言できる作品です。事故で親を亡くし生きる希望をなくしていた女子高生が、突如として世界の運命を託されます。個人が救世主的な存在に任命されることから、『マトリックス』を連想する人も多いでしょう。

夢と現実が交錯する謎が謎を呼び、世界が混沌めいていく、「どこまで行くんだ……!」と困惑するほどに疾走する「ドライブ感」を楽しめるでしょう。『君の名は。』にも近い、個人の行動が世界や大切な人を救えるかどうかにつながる「セカイ系」の物語であり、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷への問題も描かれたりもするので、共感できる人は多いはずです。

「理不尽に世界の命運を託された者が苦しみながらも、正しいと信じた行動と選択をすること」の尊さと危うさの両面を描き、その先にある予想外のラストにはとてつもない感動がありました。残念ながら現在では見る手段がないようなので、早めの配信やソフト化を望みます。

5:『ピンク・クラウド』(各配信サービスでレンタル中)

ブラジルの映画で、話題となったのはコロナ禍の「予言」になっていたこと。冒頭のテロップから「本作は(脚本が)2017年に書かれ、2019年に撮られた」「現実との類似は偶然である」と書かれており、本編では「触れると10秒で死んでしまうピンク色の雲が現れ、人々がステイホームを余儀なくされる」状況が描かれるのです。「友達とオンラインで連絡を取り合う」「VRでの共同体験」も、ストレートにコロナ禍の現実の状況を思い出すでしょう。

淡々と展開する上に、主人公の男女の「一夜限りの関係」を筆頭とする赤裸々な性の話題もあるため、ある程度見る人を選ぶ作品です。しかし、「緩やかに世界が終わっていく」中で、同じ場所に住む人間からの抑圧の恐怖を描くためには必要な描写でした。

そして、人間関係のゆがみが積み重なる閉塞的な状況がいつまでも続いていく、終わらないと悟ってしまったら……そんなコロナ禍のその先にあったかもしれない、最悪の「IF」を見せてくれるようでした。この「静かな地獄」を体験することで、相対的により良い選択のためのヒントを得られるでしょう。

近年の終末映画も一挙紹介

そのほかの、2020〜2022年に日本公開されたおすすめの終末映画も一挙に紹介しておきましょう。いずれも「コロナ禍以降」の終末映画であり、現実とシンクロしているように思えるところもありました。

『CURED キュアード』……ゾンビ映画であり「治療され社会復帰を目指している人たち」の苦悩や恐怖も描かれている
『新感染半島 ファイナル・ステージ』……危険な隔離地域での命懸けのミッションに挑むゾンビ映画
『ラーヤと龍の王国』……分断された世界で仲間を集め旅をするロードームービー的なディズニーアニメ映画
『JUNK HEAD』……7年の歳月をかけて作られた日本のストップモーションアニメでエンタメ性抜群
『ラブ&モンスターズ』……青年が恋人との再会を決心して旅に出るというサバイバルアクション(Netflixで配信中)
『ドント・ルック・アップ』……「世界の危機へのひどい対応」などが笑うに笑えないブラックコメディー(Netflixで配信中)
『バブル』……重力が壊れ荒廃した東京で「パルクール」のバトルをする若者たちの姿を追うアニメ(Netflixで配信中)
『サイレント・ナイト』……クリスマスイブのディナーパーティーが地球最後の夜であることを会話の端々から思い知らされるドラマ

Netflix配信の「終末アニメ」も

さらに、映画ではなくNetflix配信のアニメシリーズでは『キャロルの終末』もあります。
 
こちらは隕石の衝突が迫り、多くの人類が投げやりかつ奔放な「最後の日々」を送る中、その雰囲気になじめずにいる中年女性を主人公とした作品。1話から主人公の両親が平然とヌードになっていたりする、大人向けの作品となっています。

他にも、同じくNetflix配信のアニメシリーズ『ぼくのデーモン』も、退廃的な世界での旅路が描かれるため、終末ものと言ってもいいでしょう。
 
その内容は「子どもが異形の怪物を育ててパートナーになるが、周りからは嫌悪され、しかも旅の途中で人が次々に死んでいく」という暗黒版ポケモンとも言えるもの。ダークなジュブナイルものが好きな人に大推薦できます。なお、原作・脚本を担当した安達寛貴は小説家・乙一の別名義です。

これから公開の終末アニメ映画『デデデデ』にも大期待

この後に大期待できる終末映画は、アニメの『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』でしょう。『ソラニン』『おやすみプンプン』などで知られる浅野いにおによる同名漫画が原作で、前章が2024年3月22日、後章は4月19日に、前後編にて劇場公開となります。
 
『ぼくらのよあけ』黒川智之監督、映画『聲の形』の吉田玲子による脚本、そしてボイスキャストは幾田りらあのなどと、大期待できる布陣となっており、ハイクオリティのアニメとして終末の物語を楽しめることはほぼ確定的でしょう。とても楽しみです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
最初から読む
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • 「港区女子」というビジネスキャリア

    港区女子は、なぜここまで嫌われる? 自活する女性から「おごられ」「パパ活」の代名詞になった変遷

  • ヒナタカの雑食系映画論

    草なぎ剛主演映画『碁盤斬り』が最高傑作になった7つの理由。『孤狼の血』白石和彌監督との好相性

  • 世界を知れば日本が見える

    もはや「素晴らしいニッポン」は建前か。インバウンド急拡大の今、外国人に聞いた「日本の嫌いなところ」

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    外国人観光客向け「二重価格」は海外にも存在するが……在欧日本人が経験した「三重価格」の塩対応