1:『VESPER/ヴェスパー』(2024年1月19日より劇場公開中)
フランス・リトアニア・ベルギー合作のSFファンタジー映画です。重要なのは、世界が「分断されている」こと。⼀部の富裕層のみが城塞都市に暮らし、ほとんどの貧しい⼈々は外の世界でごくわずかな資源を奪い合うように生活しています。そして、寝たきりの⽗と暮らす13歳の少⼥ヴェスパーが、森の中で倒れていた富裕層の⼥性と出会い、城塞都市へと向かう希望を得ようとするのです。 いい意味でジメジメとした湿度を感じられる、退廃的な世界観が何よりの魅力でしょう。生物や植物の研究をしている少女を主人公としていることも含め『風の谷のナウシカ』も連想させますが、まさに監督コンビは宮崎駿作品も着想源にしていると明言しています。 さらに重要なのは、「歳が離れ性格も境遇もまったく異なる女性2人の連帯の物語」であることです。2人は初めこそ利害の一致により行動しているようでいて、いつしか互いを助け合う関係になります。一方で子どもや女性への搾取と抑圧を繰り返す伯父は有害な男性性の象徴のような存在で、それらをもって「⼥性の解放」というテーマも含んでいるのです。 そして、どのような世界になっても、大きな悲劇に見舞われたとしても、⽣きる理由はどこかにあるはずだという、ポストアポカリプスものならではの希望も得られる物語になっています。つらく苦しいシーンが多くはありますが、それらは必要なものだったと、見終わればきっと思えるでしょう。2:『終わらない週末』(Netflixで配信中)
オバマ元アメリカ大統領夫妻がエグゼクティブプロデューサーに名を連ねている映画です。大きな魅力は「わけが分からない現象が立て続けに起こる」こと。別荘へとバカンスに来た家族が、ビーチでとんでもない事態に遭遇したり、サイバー攻撃(?)のせいで携帯電話やパソコンも使えなくなったりと、「世界がおかしな方向へと進んでいる」数々の出来事に翻弄(ほんろう)され続けます。さらには、別荘のオーナーだという男とその娘もやって来て、人間関係がギクシャクしてしまうのです。メタファーとなっているのは「アメリカ社会が恐れている」ことでしょう。劇中では2000年に発見されたコンピューターウイルスの「ラブレター」など「現実にあるもの」についても語られていますし、起こる出来事も突飛で荒唐無稽のようでいて、アメリカや世界の歴史を踏まえれば「あり得るかもしれない」と十分に思えるものだったりするのです。
ラストは「えっ!?」と戸惑うかもしれない、実際に賛否を呼んだ結末ではありますが、「混乱した世界での人それぞれの行動」を描いた物語として、個人的には納得できました。謎解きをするミステリーというよりも、もはや「悪い冗談」なブラックコメディー的な要素さえ含んでいる、不条理なサスペンスホラーとして見ることをおすすめします。