坪井が考える、理想的な子育ての形
引退後はサッカーの普及活動にも精力的に取り組む坪井だが、サッカー教室に参加する親子を見て、感じることも少なくないという。「僕らの時代とは違って、最近の親御さんはすごく分かりやすい形で子どもに愛情を注いでいるなって思います。今はそうやって目に見える形で愛情表現をしないと、疎外感を感じてしまう子もいるかもしれないので、それはすごく大事なことなのかもしれません。ただ、だからこそ僕は、普及活動の最後にいつも子どもたちに言うんです。『君たち、周りのお父さん、お母さんを見てごらん。こうやってご両親がいるから、今日はここに来られたし、サッカーを楽しめたんだよ。それだけは忘れないようにね』って」
ならばこの時代、放任主義で坪井のようなトップアスリートが育つことは難しいのだろうか。
「今はいろんな情報があふれていますからね。それを一切見ないで、子どもたちの好きなようにやらせるのは、ちょっとリスクが高いと思うんです。僕の場合は、放任されることで、結局自分でどうするか考え、道を切り開くしかなかったし、たまたまそのやり方がすごく合っていた。だから理想的なのは、その両方がある子育てなのかもしれませんね。親は子どもに目に見える形の愛情を注ぐ。子どもはそれに感謝しながらも、進むべき道は自分自身で決める。そして親は子どもの決断を尊重し、子どもはたとえ失敗しても親のせいにしない」
親が子に注ぐ愛は、どんな形であっても伝わる
「ただ──」と、少しだけ間を開けて、坪井は言葉を紡ぐ。「僕は親にほとんど何も言われず、ある意味ほったらかしで育ってきましたけど、親の愛情はいつだって感じていましたからね。口に出して伝える愛、態度で示す愛、親が子に注ぐ愛にはいろんな形があるし、何がその子に合っているかは分からない。でも、どういう形であっても、心からの思いであれば、それはきっと伝わると思うんです」
※この記事は、All AboutとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
1979年9月16日生まれ、東京都出身。四日市中央工から福岡大を経て、2002年に浦和レッズに入団。1年目から新人王に輝く活躍を見せると、その後も長くCBのレギュラーとしてチームを支え、J1リーグ優勝(2006年)やACL制覇(2007年)など数多くのタイトル獲得に貢献した。日本代表では2006年のドイツW杯にも出場。湘南ベルマーレ、レノファ山口を経て、2019年シーズンを最後に現役引退。現在はサッカー解説者、タレントとして活躍中だ。
この記事の執筆者:吉田 治良 プロフィール
1967年生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。2000年から約10年にわたって『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を務める。2017年に独立。現在はフリーのライター/編集者。