新規の事業を立ち上げるときなどに使われる「スキーム」という言葉、正しい意味はご存じですか? ビジネスシーンでは頻出の「スキーム」の意味や使い方を、現役フリーアナウンサーの阿部佳乃が解説します。
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<目次>
・「スキーム」の意味とは
・「スキーム」と「フロー」「プラン」「ロジック」「スキーマ」の違い
・「スキーム」の使い方と例文
・スキーム図の作り方とポイント
・まとめ
「スキーム」の意味とは
「スキーム」とは、英語の「scheme」に由来するビジネス用語で、直訳すると「計画・構想」「枠組み」「配置・配列」などといった意味があります。ビジネスの場面では、「計画性を持った実行力のある仕組み・枠組み」といった意味で使われる言葉で、目的を達成するまでの手順などが明確に示された、具体性のある計画や仕組みを表します。漠然とした計画や、構想段階の仕組みなどは「スキーム」とはいえません。ビジネスシーンでよく使われる言葉ですが、海外との取引などの際には注意が必要な場合があります。
アメリカ英語で「scheme」には、「謀略」「陰謀」「悪だくみ」といったネガティブな意味があるため、相手がアメリカ英語を使う場合、使用は慎重に判断した方がよいでしょう。
「スキーム」と「フロー」「プラン」「ロジック」「スキーマ」の違い
ここからは、似た意味を持つ言葉との違いを解説していきます。・「スキーム」と「フロー」の違い
「フロー(flow)」は「流れ」という意味の英語に由来するビジネス用語で、「仕事の手順」を意味します。仕事の始まりから、途中経過、終わりまでの一連の流れを示すもので、「スキーム」が事業などの全体の計画を表すのに対して、「フロー」は個別の段階での手順や流れを表すという違いがあります。
・「スキーム」と「プラン」の違い
「プラン(plan)」は、英語から直訳すると「計画」ですので、スキームと混同しやすい言葉です。この2つの違いは、具体性や実効性があるかどうかで、「スキーム」は目的を確実に達成するための具体的な計画や枠組みを表すのに対し、「プラン」はより抽象的な構想段階の計画などを示す言葉です。
・「スキーム」と「ロジック」の違い
「ロジック(logic)」は、「論理」「論法」と訳される英語が由来になったビジネス用語で、「論理・考え方の道筋」という意味があります。「成功のロジック」「売り上げをあげるロジック」などと使われ、目的を達成するための考え方や理屈を表すのに対して、「スキーム」は、具体的な仕組みや計画を表す点で違いがあります。
・「スキーム」と「スキーマ」の違い
こちらも混同しやすい言葉ですが、「スキーマ(schema)」は直訳すると「概要」などの意味があり、分野によって異なる意味で使われる言葉です。例えば、ITの分野では「データベースの構造」を表し、心理学の分野で使われる場合は、「過去の経験や環境から得られた一般知識」を意味します。カタカナでも英語でも1文字違いの非常によく似た言葉ですので間違えやすいかもしれませんが、「具体的な計画・枠組み」の意味で使われるのは「スキーム」と覚えておきましょう。
「スキーム」の使い方と例文
ここからは「スキーム」のつくさまざまな言葉の使い方と例文を示していきます。・事業スキーム
「事業スキーム」は「事業の仕組み」「事業計画の枠組み」などを表す言葉です。事業を立ち上げる際、仕入れや生産、営業などの一連の流れを具体的に計画して示すもので、資金調達や営業などで外部の人に説明する際に用いるため、後述する「スキーム図」などにまとめることも一般的です。
【例文】
「新商品開発にあたって、早急に事業スキームを作成する必要がある」
・資金調達スキーム
「資金調達スキーム」は、新規事業立ち上げの際などに、必要な資金を外部から調達するための具体的な仕組み・枠組みを表す言葉です。銀行からの借り入れや融資、ファクタリング、社債の発行など、必要な資金をどこからどのくらい調達するのかを具体的に示すものです。資金調達の際は、第三者にもより分かりやすいように、数字やグラフなどを用いた事業計画書を作成・提出するとよいでしょう。
【例文】
「新たな資金調達スキームとして、クラウドファンディングが注目を集めている」
・M&Aスキーム
「M&Aスキーム」は、M&A(企業の合併・買収)の流れや、手法や一連の流れを示すものです。M&Aの代表的な手法には、「株式譲渡」や「事業譲渡」などがあり、こうしたものを総称して「M&Aスキーム」ということもあります。
【例文】
「株式譲渡は、株式を買収することで経営権を獲得するM&Aスキームだ」
・返済スキーム
「返済スキーム」は、借入金を効率的に返済するための計画を示すものです。返済金をどのように捻出し、どのくらいの期間をかけて返済するか、実行可能な計画を具体的に示します。
【例文】
「来月までに、公的資金の返済スキームを政府に提示する必要がある」
・販売スキーム
「販売スキーム」は自社の製品やサービスを販売・開拓するための具体的な計画や仕組みを表す言葉です。販路の拡大や販売方法の見直しなどの際に用いられる枠組みで、商品メーカーや販売会社、消費者などを軸に作られ、顧客データや口コミ、クレーム対応など顧客満足度を分析し、販売にどのように影響するのか把握することが大切です。販売スキームを用いると自社の現状や課題点も浮き彫りになってきます。
【例文】
「スマートフォンのアプリと連動した販売スキームを構築した」
・運用スキーム
「運用スキーム」は資産運用の手法を図などを使って分かりやすく示したもので、主に金融業界で使われるスキームです。顧客から預かった資産について、特定の期間の中での増減や、運用の手法や状況などを図表を使い、分かりやすく示すことで、顧客の理解度を高めることができます。
【例文】
「投資家に約束した運用スキームは、忠実に実現すべきだ」
・投資スキーム
「投資スキーム」は、投資をする際に、どの金融商品にどのくらいの配分で投資すれば利益につながるかを示す枠組みです。また、「集団投資スキーム」という言葉もありますが、これは多くの投資者から集めた資金で投資を行い、収益を再分配する仕組みのことです。
【例文】
「投資目的に応じて、採用する投資スキームを検討する必要がある」
・カラースキーム
「カラースキーム」は建築やインテリア、Webデザインなど、主にデザイン業界で使われる言葉です。目的に合わせた配色を行うためのカラープランニングで、プロジェクトや製品において、どのような色を、どの部分に、どのくらい用いるかの配分を示すものです。
【例文】
「カラースキームを決める上では、それぞれの色の持つ心理的効果にも留意すべきだ」
スキーム図の作り方とポイント
ここからはさまざまなスキームを視覚的に分かりやすくまとめる「スキーム図」の作り方と、ポイントを解説していきます。
・そもそもスキーム図とは
「スキーム図」というのは、事業やスキームの内容を第三者にも分かりやすいように図で示したもののことです。主に、「樹形型」「相関型」「フロー型」などの種類があり、示したいスキームの内容によって使い分けられています。
【樹形型】
メインとなる組織や考えを中心に、要素が派生していく場合に用いられる型です。多くは、1番左にメインとなる要素が配置され、そこから枝分かれして派生する形でより細かい要素へとつながっていきます。社内の組織図や連絡系統などを図示する際に用いられることから、事業スキームなどで多く使われるスキーム図です。
【相関型】
多くの関係先とのやりとりを示す場合などに使われる型です。ドラマや映画、小説などの登場人物相関図のような形で、複数の関係先と取引が発生する場合や、それぞれが違う役割を果たしているときにこの相関型のスキームを使うことで、全体像が捉えやすくなります。販売やカスタマーサポートの現場のほか、事業スキームなどでも用いられるスキーム図です。
【フロー型】
計画を時系列に沿って説明したいときに使われる型です。時間が経つごとに状態が変化したり、要素が追加される場合などに使われるもので、上部に各フェーズを示す要素を配置し、その下にそれぞれのフェーズでの要素の動きを示していきます。販売スキームや運用スキームをはじめ多くの用途で使われるスキーム図です。
では、ここからはスキーム図の作り方を解説していきます。
・スキーム図の作り方(1)情報を整える
まずは、スキーム図に必要な情報を整理します。ヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源を明らかにし、それぞれどのような関係性にあるのかを整理します。いきなり図にまとめようとせず、まずはどのような要素があるのか書き出してみましょう。あまり多くを盛り込もうとせず、必要な情報を絞った上で、それぞれの要素同士がどのように関係しているのか、また、どのように動いていくのかを整理しておきます。
・スキーム図の作り方(2)情報の関係性を記号化する
情報を整理したあとは、それぞれの情報や関係性を記号や矢印に置き換えていきます。これは、スキーム図に盛り込む情報や、その関係性を感覚的に捉えやすくするために重要な作業です。同じようなカテゴリーのものは記号をそろえたり、関係性の質や強さによって矢印の種類や太さを変えるなど工夫することで、より伝わりやすいスキーム図を作ることができます。
・スキーム図の作り方(3)記号を分かりやすく配置する
最後に、情報を置き換えた記号や矢印を配置していきます。スキーム図は、第三者にスキームを伝えることを目的に作るものですので、できるだけ分かりやすく、事前の知識がなくても最低限の内容を伝えられるようにまとめる必要があります。あまりに多くの種類の色や記号を使うと、かえって見づらくなります。「カラースキーム」を決めて全体のトーンを整え、記号や矢印は、明らかに意味が異なる場合などを除いて、統一したものを使った方が分かりやすい図になるでしょう。
まとめ
ビジネスシーンで使われる「スキーム」という言葉。「目的を達成するための具体性を持った計画・仕組み」という意味があります。また、「運用スキーム」や「カラースキーム」といった複合語としても、さまざまな分野で使われる言葉です。この機会に、「スキーム」の正しい意味と使い方、また、よく似た言葉との使い分けや、派生語の意味なども確認してみてください。■執筆者プロフィール 阿部 佳乃(あべ よしの)
アナウンサー×日本語教師/元TBSテレビあさチャン!報道リポーター。大学卒業後、佐渡ケーブルテレビを経て、UX新潟テレビ21/NHK水戸放送局キャスター/とちぎテレビアナウンサー。現在は、アナウンス講師、ナレーター、イベント司会等、フリーランスで活動しながら、大学や日本語学校で留学生に「日本語」を教えている。趣味は、旅行(47都道府県制覇)と声楽、読書。