3:皮肉屋のニックの「軽口」も許せる関係になる
子どもの頃のニックは(ジュディがウサギ初の警察官になったように)肉食動物で唯一のジュニアレンジャースカウトの団員になろうとしたものの、誓いの儀式でヒツジの子どもたちから「キツネは信用ならない」という理由で口輪を強制的にはめられて、心に深い傷を負います。それ以来、彼は「世界がキツネがズルくて信用できないと決めつけるなら、何をしても意味がない」ことを学んだとも告げており、差別がその人の自己肯定感や可能性すらも奪い取ることも痛切に突きつけられます。
そんなニックはすっかり皮肉屋かつ不遜なところもある大人になっており、ヒツジのベルウェザー副市長の頭の毛を勝手に触って「すごくフワフワ! 綿菓子みたいだ」と言ったり、「眠れないと自分もヒツジを数えるのかな」と言ったりしてジュディに注意される一幕もありました。種族の特徴を踏まえた行為およびジョークとしては不適切でしょうが、同時にニックは子どもの頃にひどいことをしたヒツジ族を十把ひとからげに憎んではいないことも示しているとも取れるでしょう。
そして、ジュディが過ちを認めて、そしてニックが謝罪を受け入れ、寄りかかるジュディの頭をポンポンする場面では……ニックは字幕版のみで「しょうがないな、ウサギ族は泣き虫だから」と「軽口」を言います(吹き替え版では「本当に頑張るんだから」)。さらに、ニックは録音をしたペンをジュディが取ろうとしていることをからかってもいます。2人は「それくらいのことを許し合える関係性」になったのです。
一方で、ベルウェザー副市長は、実質的に秘書のような立場でライオンハート市長にこき使われていたり、ボイラー室を雑に作り替えたような仕事場に追いやられていたりとひどい処遇を受けており、だからこそ肉食動物への憎しみを一方的につのらせ、恐ろしい陰謀を企んでしまったのでしょう。差別や偏見による悲劇は、身近な人とのコミュニケーション、分かりあうことで防げるのかもしれません。
さらに、幼い頃にヒツジたちとジュディをいじめていたキツネのギデオンは町で1番のパイ職人になっていたり、ひょうきんで明るいクロウハウザーは向いているであろう受付の仕事にも復帰できるなど、やはり正義の考えの元での生き方や、「その人らしさ」に合った仕事の大切さも思い知らされます。
一方で、免許センターの職員が全員ナマケモノというのは「もっと適材適所があるだろ!」とツッコミたくもなりますが、「お役所仕事が遅くてイライラする」という万国共通のあるあるなギャグとしておかしくって仕方がないですし、さらにラストの「偏見を逆手に取った大オチ」で大爆笑をかっさらっていくのが最高です。
さらに余談ですが、現在Disney+(ディズニープラス)ではスピンオフ短編集『ズートピア+』が配信されており、それぞれで本編の物語やキャラクターの「裏側」が深掘りされているので、ぜひ見てみることをおすすめします。あの大オチで多くの人が「気になっていたこと」も、きっと分かるはずですよ。
4:字幕版だけで分かる暗喩も
金曜ロードショーでは吹き替え版で(字幕の表示なしで)見る人がほとんどでしょうが、前述した「ウサギ族は泣き虫だから」以外にも、字幕版のみで分かる表現があるので記しておきましょう。すっかり落ち込んだジュディが聞いていたラジオでは、字幕版では「お前は間違っている」「私は負け犬」と彼女の心境とシンクロする歌詞が表示されていました。流れているのはR.E.M. の『Everybody Hurts』やEric Carmenの『All By Myself』などです。
さらに、警察署の受付担当のチーターのクロウハウザーと出会うシーンで、ジュディは吹き替え版では「ウサギは小さくてかわいいけど、だからって見た目で判断されるのは、あまり、その……」と言っていましたが、字幕版では「ウサギ同士なら“かわいい”も怒らないけど、ほかの動物に言われると……」になっていました。
これは「かわいい」が「ニガー」の暗喩になっているということでしょう。実はニガーはほかの人種から言われると蔑称そのものですが、黒人どうしであると「やあ兄弟!」のような親しみを込めて使うこともあるのです。
これ以外にも、『ズートピア』には気付きにくい小ネタやトリビア(『アナと雪の女王』ネタも!)がたくさん込められています。
ぜひ、繰り返し見て新たな発見をすると共に、よりよい世界を目指すためのヒントを見つけてみてください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。