世界を知れば日本が見える 第36回

これで3度目? 「LINE情報流出」問題を時系列順に振り返る。日本人にとっての「重大なリスク」とは何か

サイバー攻撃によって、LINEヤフーから44万件のユーザー情報が流出した事件を時系列順に整理する。日本人のデータが流出することで考えられる「重大なリスク」とは一体何なのか。(サムネイル画像出典:Koshiro K / Shutterstock.com)

LINEの情報管理不足が発覚するのは、これで「3度目」

今回のサイバー攻撃について関係者の話を総合すると、もともとは中国のサイバー攻撃者から、韓国のネイバー社の子会社を介してネイバーのシステムに不正アクセスがあり、そこからつながっていた日本のLINEユーザー情報を保存するシステムに不正アクセスが及んだ。
 
実はLINEでこうした情報管理不足が発覚するのは、今回が3度目だ。最初は2021年3月に、中国の業務委託先企業から、日本人ユーザーデータにアクセスできるようになっていたことが発覚して大騒動になった。さらに2023年8月には、ヤフーが提供する検索エンジンの検索クエリや位置情報などを韓国のネイバーに提供していたことが明らかになっている。

今回の流出事件も含めたこれまでのケースから分析すると、LINEが海外とつながっていることに問題があると言えそうだ。日本で9500万人が利用するアプリならば、海外からのアクセスはきちんと管理すべきだが、それができていないということだろう。そもそも日本の法律や規制を遵守させることができない韓国や中国から、日本最大級の通信サービスの内部情報にアクセスできること自体が日本人にとってはリスクだ。

日本人のデータ流出、具体的にどんなリスクが考えられるのか

こうしたLINEの個人情報に関するニュースが報じられると、「自分は大した情報を持っていないから関係ない」「見られて困るものはない」といった反応が出る。事実、LINEユーザーの個々のメッセージは、「レターシーリング」という技術で暗号化されているため、サービスを提供するLINEヤフーでもその内容は見れないことになっている。
 
ただ例えば、日本人がLINE(またはヤフー検索など)を使って行うオンラインなどでの活動の情報は大量に収集されている。それが国外に渡り、それを元に日本人に対する広告ビジネスやAI開発に、知らないうちに使われているとしたらどう感じるだろうか。日本人のデータが、きちんとした事前通知もなく、日本のルールに従う必要がない海外企業などの金儲けや技術開発などに使われていくのは歓迎できるものではないと思うのは、筆者だけではないだろう。
 
日本人の主要なオンラインツールとしてインフラにもなっているLINE。LINEヤフーにはぜひ自覚をもって情報管理をしてもらいたいものだ。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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