ヒナタカの雑食系映画論 第43回

「どんでん返し」がすごい! 伏線回収が秀逸すぎる2023年公開の映画8作品を見てほしい

「思い込みが完全に覆される」どんでん返し系の映画を、2023年公開作に絞って8作品紹介しましょう。SNSとネット配信のある今だからこその作品があることにも注目です。※サムネイル画像出典:(C)五十嵐律人/講談社 (C)2023「法廷遊戯」製作委員会

法廷遊戯
 (C)五十嵐律人/講談社 (C)2023「法廷遊戯」製作委員会
予想通りの展開を予想通りに出してくれる映画ももちろんいいですが、時には「こんなことになるのか!」「あの時のこれがこうなるなんて!」と驚きを与えてくれる映画、特に「思い込みが完全に覆される」ような、いわゆる「どんでん返し」系の映画も楽しみたいものです。

どんでん返し系の有名な映画には『シックス・センス』『ユージュアル・サスペクツ』『SAW ソウ』『アイデンティティー』などもありますが、ここでは2023年公開作に絞って8作品紹介しましょう。この秋に公開の映画は特にどんでん返し系の作品が充実しており、ぜひ劇場でびっくりしてほしいのです。もちろんいずれもネタバレ厳禁な内容なので、具体的な展開はここでは伏せておきます。

1:『ドミノ』(10月27日より劇場公開)


「想像は必ず覆される」など、予告編をはじめとした宣伝からはっきりと「どんでん返し」を推している映画です。あらすじは、娘が行方不明になった刑事が、銀行強盗の現場で人々を簡単に操ることができる男と出会い、その後は単なる催眠術を超えた恐るべきパワーと陰謀にも立ち向かっていくというもの。94分の短い上映時間の中に見せ場を詰め込んだ、娯楽性抜群のサスペンスアクションになっていました。

予告編では『インセプション』を思わせるところもありますが、実際の本編ではそれとは全く異なる大掛かりな仕掛けと画で驚きを与えてくれます。ロバート・ロドリゲス監督はいわゆる(お金がかかっていても)B級映画的な味わいに定評のある監督で、これまでと毛色が異なる今作でも、しっかり「らしい」ケレン味のある演出と展開があるのもうれしいところです。

2:『唄う六人の女』(10月27日より劇場公開) 


父が遺した山を売るために生家に戻った男と、開発業者の下請けの男が、森に暮らしていて全くしゃべらない“六人の女たち”に監禁されるというサスペンススリラーです。その特異なシチュエーションに至るまで見せ方が丁寧かつ大胆で、森の美しい光景と不可思議な雰囲気、提示される謎の数々にワクワクしながらも、危険極まりない状況にハラハラもするでしょう。

その後は、理由も分からず監禁される理不尽さが半ばコメディー的に描かれ、「えっ! そういう話なの?」と思うばかりの意外な展開にもなだれこみます。石橋義正監督はマネキン人形による短編ドラマ『オー!マイキー』で有名で、そちらの「狂気的でシュールな状況下のブラックな笑い」は確かに今作にも通じていました。いい意味でのトンデモ要素を備えながらも伏線回収は堅実。竹野内豊と山田孝之の持ち味が最大限に発揮された役柄にも注目です。

3:『法廷遊戯』(11月10日より劇場公開)


第62回メフィスト賞を受賞した小説の映画化作品で、弁護士が幼なじみの女性が起こした事件の謎を解く最中で、とある過去の因縁と真実が明らかになっていく法廷ミステリーです。97分というタイトな上映時間の中で、ロースクールでの全くキラキラしていない青春模様を描いてから、実質的に3人いる主人公の性質を鋭く深く描き、全く無駄のない作りになっていました。それぞれが「何かを隠している」ことを匂わせる永瀬廉と北村匠海と杉咲花の配役も完璧です。

重要なのは、事態の二転三転が単なる驚きにとどまらず、その二転三転自体に物語の本質が隠されていること。「何から何まで信用できない」「なかなか正解にたどり着けない」からこその「翻弄(ほんろう)される」面白さがありますし、現実で法律や裁判に関わる仕事に従事している人の苦心も伝わってくるはず。見る人それぞれが主体的に考えられる、独特の余韻を残すラストまで、ぜひ見届けてほしいです。

4:『配信犯罪』(10月13日より劇場公開中)


違法のライブ配信に出演している恋人を救うため、あらゆる手を尽くそうと奮闘する青年の姿を追った韓国発のサスペンススリラーです。もどかしいのは、恋人を救うためにライブ配信を見続けるばかりか、いわゆる「投げ銭」までをして犯人の思惑に乗るしかなくなること。一枚上手の犯人との攻防にはさまざまなアイデアが詰め込まれており、最後まで緊張感が途切れません。

何より、デジタル性犯罪への「カウンター」になっていることが重要です。韓国では実際に「n番部屋事件」というメッセンジャーアプリで行われていた大規模な犯罪が明るみになり、チェ・ジュヨン監督は執筆済みの初稿の脚本と似ていながらもさらに残忍な事件が現実で起こっていたことに衝撃を受け、シナリオを修正したのだとか。少し現実離れした設定もあるものの、問題そのものは現実的なものであり、「誰もが被害者にも加害者にもなる可能性がある」ことも再認識できるでしょう。


>次のページ:『エスター』の前日譚も! まだまだある「どんでん返し」映画

 
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